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「#幼馴染」のBL小説を読む
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- ナノ -

「お前、最近ナマエに対しての態度がちょっとなってねえんじゃあねーの」


その日はちょうどナマエが非番の日だった。冷蔵庫にあったのオレンジジュースを2Lのペットボトルのまま飲んでいる俺に、ミスタはこう言った。

「ミスタの言う通りです。もう少しナマエさんに対する態度を改めてください」

その言葉と同時に、フーゴの貧乏ゆすりの音が聞こえた。隠そうと努力はしているみたいだけど、今日はあまり機嫌が良くないみたいだ。


ナマエは俺たちのチームの中で唯一の女だ。でも俺たちにあまり気を遣わせないように、そしてまた誰ともそういった関係を持たないように、丁度良い距離感というものを重視している奴だった。どちらかと言うとブチャラティやアバッキオのような 「大人」 の部類に入る人で、俺やフーゴのような年下のメンバーには比較的気さくに接してくれる。ミスタもまた同い年のように打ち解けた関係。年上の二人とはまるで妹と言えるほどではなくとも、そこそこ可愛がられていたように思う。ただ俺は先程説明したようにあいつよりも 「年下」 だったから、普段はそれ相応の態度を取られていた。

「だってあいつ、俺をすっげえ子供扱いするんだ」
「年下だからでしょう」
「フーゴだってそうだろ! お前も嫌になんねーのか!?」
「全然」
「まあまあ、いいだろそれくらい。弟みたいに可愛がって貰えてるんなら」

「だから! 俺はそーゆー扱いじゃなくて……!」


そこまで言ったところで、何故か続きが出てこなかった。それどころか、言葉が止まった後で続きを考える始末だった。

「そーゆー扱いじゃなくて? なんだよ」
「……」


でもいくら考えても続きは出てこない。俺がしばらく黙り込んでいると、フーゴはひとつ大きな溜息をついて、俺を睨みつけた。

「子供扱いって言っても具体的にどういうものか教えて貰わないと分かりませんよ」
「あ? ええと……そうだ! つい最近なんだけどよ……」









それはとあるレストランの警備を任された夜の事だった。俺がいつもの格好でアジトから出ていこうとすると、たまたまアジトに来ていたナマエが言った。


「ナランチャ、今日はスーツじゃないと駄目よ」
「は? なんで?」
「今日警備するレストラン、簡単に言うとお金持ちばっかりの場所なの。そんな格好で行ったら浮いちゃう」

ソファに座っていたナマエは読んでいた雑誌をテーブルに置いておもむろに立ち上がると、部屋にあったクローゼットを漁り始めた。ナマエの横顔に見えるくるんと上がった睫毛に目が引き付けられた。

「確かあなた、半年前にチームのリーダーが集まる会合でブチャラティに着いてったでしょう? そのときのスーツがクローゼットにあるはず」

ほら、あったわ、とすぐにナマエはクローゼットからスーツを取り出した。確かに俺のだ。オレンジ色のネクタイがその証拠。

「これなら全然着れそう」

ナマエはスーツのかかったハンガーを俺の体に合わせると、うん、とひとりで勝手に頷いていた。








「……ってことがあったんだよ!!」
「何がいけないのか全くわかりません」

ハァ!? と勝手に声が出てしまった。ミスタもフーゴと同様の感想を持ったみたいで、俺は納得出来ず一人テーブルをバンと叩いた。

「『これなら全然着れそうね』ってさァー! 俺の身長が半年前から全く変わってないってことだろ!?」
「確かにそうですが、まさかそれだけですか?」
「それだけじゃあねェ! あのあともネクタイが曲がってるっつって『ネクタイくらい自分でつけられるようにしなさいね』って小言言われながら直されたんだよ!」
「それは確かに嫌だな。男なら黙って直してもらいたいモンだぜ」
「そうだ! その通りなんだよミスタ!」


ミスタはテーブルに置いてあったスナック菓子を口の中へ放り込むと、パリパリとそれを噛み砕いた。フーゴは何かを考えるように唇に手を当てていたが、やがてはっとした様子を見せると、俺に向かって口を開いた。

「つまりナランチャは、ナマエさんに自分を男として見て欲しいんですね?」
「え?」
「あ〜、そういうこと」
「なっなんだよ!」

何かを察したような生暖かい視線が一度に二つ、俺の方へ集中する。フーゴの貧乏ゆすりは、いつのまにか治まっていた。俺は二人の言っていることがどういう意味なのか分からない。ただ二人の視線が心地悪くて、思わずソファから立ち上がった。そのとき、不意にドアをノックする音がした。

どんなときでも律儀にノックをして部屋に入ってくる仲間は、ひとりしかいない。部屋に入ってきたのは、なんとナマエだった。

「ナマエさん、どうしてここに?」
「フーゴ! 実は昨日忘れ物しちゃったの。ゴールドのピアスなんだけど……って、ナランチャ?」
「!」

俺がナマエを見てまず目に入ったのは服装だった。服がいつものナマエじゃない。いつもきっちりした服装なのに、今日はなんだか、ふわっとしている。

「なんでそんなに汗かいてるの? もしかして暑いの? 熱?」
「うっ、うるせえよナマエには関係ないだろ!」
「??」

続いてミスタが吹き出した。ナマエはこの状況がなんの事かさっぱり分からない様子で、不思議そうに首を傾げていた。前にはナマエ、横にはミスタとフーゴ。後ろ? そんなの不自然すぎるだろ。
俺はただ、自分の足のつま先に目のやり場を移すしかなかったのだった。




―――

2019.6.2

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