×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -





彼女が死んだということを聞いた日はこの日からそんなに期間は空いていなかったように思う。ほんの少し会わなかった数日間で一人の人間の存在がなくなってしまったということは、よくあることだと言うのに何故か信じられなかった。

「その様子だと、貴方も気づいていたみたいですね」
「ジョジョ……」

“気づいていた”というのはきっと彼女の能力のことだ。でもきっと彼は僕よりも先にそれに気づいていたのだろう。

「僕が話した能力はほとんど殺戮兵器のそのものでしたが、彼女は死んでもう一晩経つ。なのに今のところ変死体の類は見つかっていない。つまりどういうことか分かりますか?」

「ナマエの能力は、少なくとも戦闘のためのものではない、ということだと思います」
「その通りだ。でも僕はまだ彼女のスタンドらしきものを発見したという報告は受けていない。フーゴ、深くは聞かない。何か手がかりがあるかもしれません、」


彼女の家へ行って、遺品を整理してきてほしい。

その命令は、僕に彼女が死亡した事実を叩きつけられた反面、どこか嬉しいような気持ちを抱かせてくれた気がした。





「……あ、あったぞ」

早速ナマエの家へ行き、手がかりと聞いて初めに思い浮かんだものは“日記”だった。彼女が話してくれた“夢”の内容が、もしかしたらもっと詳しく書かれているのかもしれない。結局は見つけられたが、ここまで随分時間がかかってしまった。彼女が実際に使っていた物をひとつひとつ見つめてしまっていたのが原因だろう。でも見つかってよかった。ぱらぱらとそのページを捲って、彼女が自分の夢の話をしてくれた日付のページを開いた。しかし、そこには自分に話してくれたことしか書かれていなかった。不思議を苛立ちは湧いてこなくて、それどころかこの文章はナマエは僕のことを心の底から信頼してくれていた証明のような気がして悪い気はしなかった。


冷静に今度は初めからページを捲ってみる。序盤のほとんどはジョジョに認めてもらうための任務の苦労ばかり綴っていたが、そのうち僕はページを捲るたびに泣きそうになった。

“フーゴといるととても居心地が良いの”

誰に向けているのかもわからないその一文を見つける度に、自分の片思いが報われていくような感覚に襲われた。気がつけば一度目を通した彼女自身が見た夢の話をすっ飛ばして、彼女が死ぬ日の朝に書かれたページを開いていた。

“いつもはこの日記は夜に書くんだけど、今日だけは落ち着かないからメモ替わりに書いておくことにする。
またあの“私のスタンド”と名乗るヒトが夢の中へ出てきた。前は私を不安にさせるようなことしか言ってこなかったくせに、今度は能力という私が一番知りたかったことを説明してくれた。”


僕はごくりと息を呑む。そしてその下の文に目を移した。



“「私の一番大切に思っている人」 を護ってくれるという能力、らしい。その対象は一番にジョジョ、だと思ったんだけど、そうじゃあなくて、「私個人の意思で大切想っている人」 らしい。”

“私はそれを聞いて、もう死んでもいいと思った。そう言ったら彼女は 「よかった」 と安心したように言っていた”



それを見て、彼女が死ぬことは 「運命」 だったように思えた。まだ下っ端だった頃、血まみれのミスタが 「石」 という単語と一緒に同じようなことを言っていた気がする。

だが、涙が溢れるよりも先に僕はあることに気がついた。



「……全て同じ日に書かれている?」


ばらばらと前のページを捲る。これも、これも。文字の濃さが、全て同じなのだ。しかもこの日記帳も全くくたびれていない。新品のように全てのページの余白は真っ白だ。

これは一体どういうことなんだ?

その一心で文章の書いていない最後のページまで捲りきると、そこには今日の日付で、たった一文だけが綴られていた。


“護る対象がこの日記帳を見たとき、能力は発動する”







僕の頬を伝う涙を、死んだはずの彼女の手が拭った。




短いものですが裏話などは裏話まとめページに書いているので、興味のある方は見ていただければ……!
2019.1.2