ああ、ほら。此方に向かって振る白磁器のようなその腕も。つ、と時折何かを思い出したように空を見上げる黒目がちの瞳も。風をはらんでぱらり、と広がる夜を切り取ったようなその髪も。眼を閉じれば映るのです。全て、全てが、愛おしい






『あ、いた。』


不意にかけられた声にはたり、とそちらを見やった。サクサク、草を踏み分け、歩み寄ってくる。はふ、と彼女がついた息から白く広がって霧散したものを、煙のようだとただ思った。くしゃり、と座り込んでいる己に対し、真横に立った彼女が一括りにした己の髪をかき混ぜた。いつも言っている。童の扱いは辞めてほしい。そんなつもりはない、と彼女は笑うが、どうにも反省してはいないようだ。ふにゃり、と笑いながらただ頭をかき混ぜられている。


「、童では御座らぬ。」


『やっぱ、言った。』



何故か彼女は、己がこう口にするのを待っているような。そんな気がするのである。悪戯が成功した、それこそ童のように嬉しそうに微笑むのだ。夕暮れ時のこの場所は、つきん、と指先が痛むほど冷えていて、高く澄んだ広い橙色の空は、ぽか、と口を開けているようで。吸い込まれそうな彼女がただ眩しく、なった。眩しくて、眩しくて、そぅ、と眼を伏せれば、ああ、見えてくる。



此方に向かって振る白磁器のようなその腕も。つ、と時折何かを思い出したように空を見上げる黒目がちの瞳も。風をはらんでぱらり、と広がる夜を切り取ったようなその髪も。再び己が眼を開いたときには、この胸に巣くうモノを吐露するように、一回り小さい身体を腕に閉じ込めたのだ。






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