私は家臣と父上と共に知らぬ土地に来ていた。それは私の縁談の為。

どうせ私がこの話合いに参加しても無意味だと思いお城の女中にこっそり声をかけこの土地で一番美味しいと評判の団子屋を教えてもらい抜け出した。


お目当ての団子も食べ、満足した私は待っている家臣の所へ戻ろうと店を出ようとした時だった。


私が余所見をしてお店に丁度入って来られた方とぶつかり家臣の為にと持っていた団子が地面に呆気なく落ちてしまった。


謝らなきゃいけないと思いながらも落としたことのショックも大きく中々口から声が出ず呆然としていると


「…その…貴殿は、ここの団子はお好きで御座ろうか?」

「…え、あ…はいとても美味しゅう御座いました。」

「…それはよかった。その、某も注意していれば貴殿の団子を無駄にはしなかった故ここは某に責任を取らせて頂けませぬか?」

流石に焦った私は

「…全ては貴方様にぶつかった私の責任で御座いますので、そのお気持ちだけで。

と言って軽く会釈をしてまた団子を頼もうと声を出そうとした瞬間、いきなり私の腕を掴み私の唇にそっと人差し指を添えてシッっと告げ


「…団子、4本ほど包んでくだされ。」

私に微笑み、ではこれで某は失礼致す。といなくなってしまった。追いかけようとしたものの団子を受け取った頃にはもうすでに彼の姿はなかった。

団子屋を出た時の後姿がやけに眩しくて、忘れたくなかった。

そう、私は恋した。

いわゆる初恋は実らない。なんて言葉誰が考えたのか正しくその通りで少し泣いた。


それから数日後この想いとは裏腹に、この間の縁談が成立した。


しかも顔は知らず、名前しか知らない人に私は嫁ぐ。全て生まれた時から覚悟の上とはいえ虚しく思った。

「…それでは、また。」

生まれ育った土地を離れるのは寂しいと思っていると道中、お迎えに来て下さるという手紙が届いた。

一体どんな方なのか。期待よりも不安に押しつぶされそうだったその時だった。


馬の駆ける音が聞こえその方を見ればどんどんこちらへ向かってくる。敵かと思い武装した兵が私を取り囲む中



「…名前殿!!」


確かに私の名を呼ぶ声が聞こえとりあえず、兵を下げる。
そして馬に乗ったその人が降りた瞬間、私の思考は停止した。


「…あ、あなたは…この間の…」


「…なっ、貴殿は…」


こんな事があるのだろうか。一度限りの恋だったと諦めていたのに。夢ではないだろうかと錯覚してしまう。


そして声を絞り出すように出して唯一知っていた


「…あなたが、真田…幸村さま…なの」


名前を呟けばそうで御座ると言われ


「…これも何かの縁で御座いましょう。」


そう言って私を抱きしめた彼の温もりを感じるのにまだ夢の中にでもいるのかと思ってしまっている私はこう、呟いた。


「…何年掛っても構いませぬ、この出会いを…」






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