「唇むにむに」
「………」
「ほっぺはもぬもぬ」
「…名前殿」
「はい?」

呼吸が感じられるほどに二人の顔は迫っており、名前が遠慮なしにべたべた触る。幸村は暫くされるがままだった。
黙っているのが耐えきれずに声をかけると、無邪気な瞳に眉間にシワを寄せた自分の顔が映っていた。

「これは何の遊戯だろうか?」
「んー。触りあいっこです」
「某は触れてないのだが…」
「あー。触り待ちです」
「……」
「髪はましょましょー」

幸村の髪を、まるで頭ごと掴むかのように手のひら全体で撫でて感触を確かめる名前。
目の前で爛々とひかる双眸を目の当たりにして、名前に飽きが来ていないことを悟った幸村は、とりあえず同じように触れてみることにした。

「…その、」

行く先に迷った手がむなしく宙をただよう。
どこから触れていいものか。無言で悩んだ末に指先でなぞったのは名前の目元の下だった。

「名前殿の目には何がどう映っているのか、…某には不思議でござるよ」

瞳に触れられない代わりにそこを優しく撫でて、思いを呟く。
言われた一言に何か返そうとする名前だが、その唇にも幸村の指があてられた。

「ここは、名前殿から伝えられたり教わったりする。某にも大事なものだ」

ためらいがちに触れるだけの指がそっと離れていく。
蓋が開けられたように、名前がしゃべり始めたのはそれが合図だった。

「…幸村さん、もしかしてわたしの真似ですか?」
「む。作法が違ったか?」
「わたしだったら、おめめパチパチ、とかで終わります」
「ぱちぱち…」
「でも、」

名前の言葉の続きがなかなか出て来ず、どうしたのかと幸村は顔をのぞき込む。
名前は幸村を見上げて、照れ臭そうに微笑んでみせた。

「できれば、幸村さんのやり方でもう少し」

その桜色の頬につられ、幸村も気恥ずかしそうに俯いた。その顔は耳まで赤くなっていた。
返事の代わりに幸村はつたない動きで名前の髪を梳き、また何事かを囁いた。






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