あまいもの、それは私の空洞を満たしてくれる大切なもの。
チョコレートが口の中でとろけるときなんてもう幸せだし、わらびもちを始めとするつるつるでもちもちしたものが喉を通るときなんてそりゃもう日本人万歳なんて思って、マカロンの可愛らしさに目を奪われつつ一口で食べちゃったり、ドラ●もんの気持ちがわかるからどら焼を大きな口で食べてお茶を飲んでみたり、ケーキを食べるときに不意にふわーっと心が温かくなったり、お汁粉でお餅が大きめなだけでご機嫌になっちゃったり、マシュマロはそのまま触感を楽しんでも熱ても素晴らしかったり、………
それは戦国時代(?)と思わしき世界に何故かやってきてしまった私にとって揺るぎない事実のはずだった。
なのに……… そう、なのに………
「最近、甘いものがあまり欲しくないんだよねぇ」
「……ぬ?」
「ああ、幸村さんはどうぞ食べててください」
「そうか、では!」
縁側で暖かな日差しを受けながらのおやつ。 そりゃあもう、素晴らしいのはわかる……なのに私は一本のみたらし団子で心もお腹もいっぱいになってしまうという不思議な状態なわけで……暇なので隣にいる上田城城主の幸村さんを見る。
凛々しい眼差しに、長い睫毛、そこら辺の女より美しい肌、それに薄い唇……口元につく御手洗の垂れは何よりも甘そうで、それを舐めてみたいと思う私がいた。 (すっごく、甘そう)
「ん?某に何か?」
「いえいえ、ただ見てるだけですー」
「……そうか」
幸村さんを穴が開くように見ながら、ふと回想してみた。 ………………思いだしたくもないが来たばかりの時は大変だった。 あまりにもアレなんで思い出したくない部分は私自身が封印してしまったらしい。 記憶はかなりあいまいだが、初めて向けられた殺気には参った。
―――それだけは、 忘れ、られない―――
私はいきなり戦場に現れてしまい、猿飛とかいう忍に殺されかけた……… クナイがひやりとした、とかの断片的な記憶は未だに私を襲う時がある。 泣いたし、失禁すらしてしまった気がする………そんなあまりにも情けない私を庇ってくれていまだに護ってくれているのは隣にいる幸村さんだった。 泣いている私を敵ではないと断定してくれて、剰え……手を差し伸べてくれたのだ。 温かい手には返り血があったことをよく覚えている。 血なまぐさいとかそんな記憶はなくてただあのときの温かさしか私の中にはない。 幸村さんはやさしい人だ。
拾われてからはたしかお風呂に入れて貰って、あまりの温かさに私は泣いてしまったのだ。 そしてお風呂から出たら、なんだか淋しくなったのを覚えてる。 幸村さんときちんと長く会話をしたのはそのときが初めてだった。
『……どうした?』
『……さなだ、さま……』
『湯が冷たかったのか?』
『そんなわけじゃ……』
『―――では、某と話でもどうか?』
今思い出すと何が“では”何だと思う。 思えば、幸村さんも緊張してたのだろう。 温かい葛湯を猿飛の忍が持って来てくれた。 生姜が少しだけ入っていて、黒砂糖が甘かった。
沢山幸村さんに私は話した。 幸村さんは私の話をずっと聞いてくれた…………………………………今、よくよく考えると幸村さんの行動は武将として非常に甘い気がするがそうでなければ私は死んでいた。 非常に難しい問題であるが、私は何回目だかわからないが幸村さんのところにトリップができてよかったとしみじみ思った。
ふと空気が和らいだ。 幸村さんの頬が薄らと桃色にそまる。 桃の甘味を思い出す……甘そうな頬っぺたに喉が渇きを覚える。
「………なんだか恥ずかしいで御座る………」
「それは失礼しました」
そんなことを言われてしまったら、私は別のものを見なければならない。 庭に目を向ければ、猿飛の忍者がいた。 なんだか生温い眼差しがこちらにむいている。 こら、こっち向くな私は貴方が苦手なんですってば!
「………最近、そなたは綺麗になられた」
不意に耳に届いた幸村さんの言葉にどきりとした。 それと同時に胸がギューってなって、なんだか口の中が甘くなる。
「……そ、う……ですか」
ああ、もう! 途切れ途切れになる言葉は可笑しく聞こえてしまわないだろうか? 自分に舌打ちでもしてやりたい気分だ。 と言うかどう続ければよいでしょうか? わからないんですけど!!
「……」
「………」
「…………」
「……………」
沈黙が重い。 ぐぅ……変な声を出したらいけないのはわかる。 ただ、何を言えば良いのかわからない。
「―――まったく、まだまだお子様なんだからぁ」
不意に耳元に聞こえた声は子安ヴォイスだった。
「佐助?!」
「!!!!!」
いつの間にか、流石忍と言うべきか前にいたはずの男は私と幸村さんの後ろにいた。
「残念だった?それとも安心した?」
にこにこと笑っている橙色の頭の男を殴りたくなった。 ………が、我慢。 と言うかこっちを向くな!!何だよその顔!!
「やれやれ、本当に旦那は爪が甘いよね」
「……ぐっ、」
……………幸村さんの爪が甘いなら舐めてみたいとか思った私がいるのに気付いて死にたくなった。
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