桜が舞う。振り返って笑う君はそれを見て泣いている。あたしは知ってた。薄紅の雨の中で確かな色を持った君が…
君がなんだ?
ふっと意識が上がってく。見慣れた夢と見慣れた床と見慣れた顔。すぴーと気持ちよさ気に寝るのはいつも鏡の先にいる顔だ。まあつまりはあたしだよ。まーた抜けたー。ほう、とため息をついたらまた意識が上がる感覚がして今度はちゃんと天井が見えた。よしよし。ほんと困った体質である。
ぐーっと伸びをして笑う。今日も調子よいですね。

「さーて、今日も頑張ってお仕事しますか」

ま、仕事つっても箒持って境内掃くのが主なんだがね。たまにお守りやらを売ったりもする。そうですあたしは巫女さんなんです。
知ってるかい、巫女って案外暇なんだぜ。とか言ってみたりなんかして。
しょっちゅう中身が抜けるせいで学校にはまともに行けない。だから祖父ちゃんの神社で巫女をしてるのだ。
どうやらあたしの中身は何かを探してるらしい。それがあの夢である。

「あんなイケメン、一回みたら忘れないはずだけどねえ」

身に覚えがないんだよなあ。困ったもんだ。
お前もよく出てくるんだぞーと桜の木を見上げる。夢のように満開の花なんかない冬の寂しい裸木だ。
探してる君の名前くらい分かればいいんだけどそんな手がかりはくれてない。意地悪な奴だ。いやあたしだけどな。
しかたないとため息をついたら意識がふっと………あー、またですか。これ体質で済ましていいのか。
木にもたれて座り込んでる自分を見下ろしてため息をつく。
まあ、人いないから良いけどさあ。ふう、と桜の枝に腰掛けて境内を見渡す。相変わらず誰もいない。ぼんやり見下ろしてたら、鳥居の方から音がして人が立っていた。
逆光でよく見えん。身体にも戻れん。諦めようか。大人しく心配されよう。
ぼーっと歩いてくる人を見てたらだんだんはっきり形が…あれ、どっかで見たことあるような。えらいイケメンだぞ。えーっと、喉元まで出てきてるんだけど…誰だまずいなボケが来たか。むーん。

「ど、どうされた?!大丈夫でござるか!?」
「大丈夫だよー…って聞こえてないか」
「しっかりしてくだされ!名前殿!!」

ん?あれ名前?あたしの身体を抱えて慌てふためいているイケメンに近づこうと枝から飛び下りる。おー、近くで見てもイケメンだ。反応のないあたしの身体に泣きそうになった横顔を見てぴーんと電撃が走った。
その瞬間意識が遠のいて目を開けたら泣きそうな顔。ほんとに、君のその表情以外ってあんまり見たことないよ。

「泣きそう」
「それはそなたが、!」
「抜けてたんだもん、さっきからずーっと見てたよ」
「、その癖まで変わらぬのか」

某は心配するばかりだ、と泣いてるように笑う幸村の頬をひっぱる。そんな顔はしなくていいんだよ。怒りたいなら怒ればいいのにさ。
だいたい夢にでてくるくらいなら現実にもっと早く現れろ。あたしはずっとこの場所にいるのにさあ。
やわらかい頬をにぎにぎしてたら放してくだされと涙目になってたから解放する。

「もっと早く来てよー」
「そなたが某を忘れておったのだろう」
「げげ、何故バレている」
「そなたが思い出さねば会えぬよう某を呪ったではないか」

某も待ちくたびれた、と呆れたように笑う姿に申し訳なくなる。そうでした。前世も巫女だったんだよそういや。すまん、過去のあたしも現在のあたしも馬鹿だったんです。
ごめんねえと謝ったらまた会えた故かまわぬと笑ってくれた。
相変わらず優しい。

「ずっと幸村の夢見てた。君が桜の雨の中であたしを振り返って泣いてる夢」
「最期に会った時でござるな。しかし、泣いてはおらぬと思うのだが…」
「んーん、泣いてた。あたしずっと知ってたよ」
「、そうか」

名前殿には敵わぬな、と笑った幸村に抱きついた。敵わないのはお互い様だ。まさか自分が思い出すとも見つけられるとも思ってなかった。だから、呪ったのだ。なのにその呪いすら跳ね返してこうして抱き着ける距離に来てくれた。

「ど、どうされた?!は、はな、はなれて「やだ」名前殿?!」

今更慌てだした幸村を離さないよう力をこめる。
残念ながらもう離れてはやらないのだよ。待たせて待たせてようやく帰ってきたんだから。待たせた時間を忘れさせるくらい側にいる。

「そ、そそそろそろ離れ「ただいま、ただいま幸村」
「、お待ちしておりました、名前殿」

ためらいがちに背中に回された腕が暖かくて笑った。うん、ようやく見つけた。








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