大和の国に飛ばされてしまったタカシ(ボツネタ)
2021/05/18 16:59
夢主=◯◯表記
――どこだここ!?俺、バイトに遅刻しそうになって近道のトンネル走ってたはずなのに……。
とりあえず弾んだ息を整え、四方を見渡す。ビルも道路も民家もない。視界を染めるのは緑一色だ。
気が付いたら自然豊かな見知らぬ場所に立っていて、夢か現実か混乱するタカシ青年は不意に背後からゾッとする気配を感じて振り向いた。
「貴様、一体何処から湧いてきた――?」
低い声で問われ、反射的に後退りする。
いつの間に現れた筋肉ムキムキで顔面古傷だらけの男がこちらを睨みつけていた。
その手には刃物らしき物が握られていてタカシはギョッとした。
180Cm半ばはありそうな長身の男だ。よくみれば整った顔立ちだが、禍々しいくらい敵意が剥き出しだった。いや敵意よりは寧ろ殺意だろうか、友達と喧嘩した時なんかとは比べ物にならない、今まで触れた事のない他人からの重たい感情だ。
タカシの恐怖を助長するように、どこかコスプレじみたデザインの男の白いコートは所々が乾く前の血のような鮮やかな赤に染まっていた。
――新手の通り魔か!?とにかく逃げないと……!
タカシは走ろうとした。
が、男に背を向けた直後耳元でビュンと風を切る音がして、近くの木に男が持っていた刃物が刺さる。一拍遅れてタカシの頬に痛みが走る。少量の血が一筋垂れる。
――うわあっ!マジか、刃物投げてきやがった!
「動くな!次は頭を狙うぞ」
「わ、分かった、分かったから……暴力反対」
もう暴力どころか命を脅かされている状況だが、生きる死ぬかの瀬戸際に立たされた経験などないただの大学生が咄嗟に命乞いを出来る訳もなく、どこかふざけたような言葉しか出なかった。
「小僧、どこの回し者だ?」
「回し者?そんな……時代劇みたいなこと急に言われましても……」
小僧なんて言っているが、男は三十いくかいかないかくらいでタカシとは十歳も離れてないように見える。まだ若いのに妙に古臭い口調だ。
「とぼけるな、ふざけた身なりをしているが西の忍か?目的は何だ。頭目一族に害を成すつもりなら容赦はせんぞ、若様のご帰還は貴様らにとって不都合極まりないのだろう」
「ええっと…………シノビとかトーモクとか、さっきから仰ってるのは……何の話なのか、ちょっと意味分かんないっていうか……その、」
尋問する男の威圧感は凄まじいものだった。
タカシは最早泣いてしまいそうだった。最近好きな子がまた行方不明になってただでさえ落ち込んでるというのに……なんだというのだ、なんでこんな理解の追いつかないような怖い目に合わなければいけないんだ。
どうか夢であってくれ!そして一刻も早く覚めてくれ!!と願うほか出来ない。
古傷の男は不意に黙り込み、上から下まで品定めするみたいにタカシを見た後「しかし、忍にしては随分と貧相な体だな……」と顔を顰める。タカシがヒョロヒョロなのは事実だが現状に何の関係があるというのだ。
+中略+
(その後、駆けつけた絃敷の「侵入者の処遇については若の指示を仰ぐべきだ」という常識的な対応によってなんとか命を繋ぐタカシ。頭目屋敷へ連れて行かれる)
――女の子?……いや、よく見ると普通に男だな。ガタイもいいし。学ラン着てるけど俺とたいして年変わらないみたいだ……。
いかにも『偉いです』というように上座に胡座をかいて座る中性的な青年に対して、ムキムキ古傷男(篝という名前らしい)とイケメン侍(絃敷という名前らしい)はうやうやしく跪いている。
若様の御沙汰を待て!と怒鳴る篝にタカシが萎縮すると、若様と呼ばれ敬われている学ランの青年が「やめろ」と制止した。喉が悪いのか少し声が掠れている。
効果は抜群で篝は嘘みたいに静かになった。まるで忠犬だ。いつもの光景なのか絃敷はやや呆れている様子だ。
「ぉ前のことだ、どうせ乱暴にした、だろ。……ちゃんと話をきぃてやれ」
得体の知れないタカシを始末したくて仕方ないらしい気性の激しい篝と比べて、学ラン青年はかなり良心的な人間のようだ。
……とにかく訳が分からないが、これ以上痛い目に合わずに済みそうだ。
タカシがホッとしたのも束の間。
「――嘘……タカシ、くん……?」
「え……っ◯……◯◯ちゃん……っ!?」
部屋の奥から現れたのは、最近また行方不明になったタカシの好きだった子……◯◯だった。
+中略+
(◯◯と思いもよらない形で再会するタカシ。大和の国について色々話を聞き、己の置かれている状況を理解する。が、◯◯とタカシが日本での旧知の仲と知った途端、学ラン青年(十毅)の態度が豹変する。◯◯がタカシによって日本に連れて行かれるかもしれない……という危機感からタカシに敵意を向ける。
過激派の篝「若様……いっそ殺ってしまいましょう。あの小僧が姫様に余計な事を吹き込まぬよう、首と胴を切り離して置いた方が賢明です」
穏健派の絃敷「やめろ篝。お前こそ若に余計な事を吹き込むな」
その後。
突然異世界に飛ばされて右も左も分からないタカシをサポートしようとタカシにつきっきりの◯◯に、十毅の苛立ちは限界にまで達して……小さな事件は起きる)
タカシの視界が回った。
目眩を起こしたのとは違う。意識ははっきりしていたが独特の浮遊感があって、なんというか体験した事のない感覚だった。
それからドサッと音がして、土埃が舞って、全身に遅れて痛みが走る。
体を強打した所為で呼吸が苦しくて呻くタカシを、口元を押さえて驚いた表情の◯◯が見下ろしている。
そこでやっとタカシは気付いた。
あ、俺、十毅さんに投げ飛ばされたんだ。
と。
話の流れで、ただ◯◯ちゃんの肩に触れようとしただけなのに……。
「ぐ……いったぁ……ッ」
「大丈夫タカシくん!?」
慌てて◯◯がタカシの傍らに跪こうとするが、それすらも十毅が阻止する。
自分の物だと主張するように◯◯を抱きしめながらタカシを見下ろす十毅の眼差しは冷たい。
うわー……嫉妬深ぁい……。
なんて、割と酷い目に合わされたというのに持ち前の性格から呑気にそう思うタカシだが、今回に限らず前々からタカシに対する当たりが強すぎる十毅に不満があった◯◯はついに爆発してしまう。
次の瞬間◯◯は、己を囲う十毅の腕を力任せに振り払った。
「なんて事するのトギ!いくらなんでもこれは酷いよ!」
「ッ……で、も…………っ……」
一言◯◯が怒鳴っただけでいつもの無表情が嘘みたいに泣きそうな顔をする十毅に、◯◯はすぐに冷静さを取り戻して「っ大きな声出してごめん」と謝る。
◯◯ちゃん十毅さんに甘いな。とタカシは密かに思った。
「どうしてこんな事したの、トギくん」
◯◯が優しく訊くが、十毅は拗ねた子供みたいに俯いてだんまりだ。
が、その視線の先は憎々しげにタカシに固定されているのは一目瞭然で。
◯◯に怒られたのはショックだったが全く反省していない十毅に、◯◯は困った様子だったがやがて。
「私達、暫くの間距離を置いた方が良さそうだね」
と、静かに告げた。
××××
という途中ぶった切りな小ネタのボツネタです。
こういう展開もあるかな?と思いついてバーっと書いてみたんですが、十毅を怒鳴る夢主がなんか違うような気が……。
でも、理不尽に友達いきなりぶん投げられたら流石に一言ぐらいは怒りますよね。
いや、十毅に激甘なことに定評のある夢主は怒るか?(以下無限ループ自問自答)
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