稲GOss | ナノ




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「初々しさ満点な京天」
※涯 文色様のみお持ち帰り可能です。




剣城はおかしい。別に剣城を否定しているわけではないが、とにかく彼の持つ基準や常識は世間から見て少しズレている。


例えば、練習中には水分補給をこまめにしろと言うくせに、お昼はカロリーメイトなどといった栄養補給を怠った食生活を取っているとか。(見兼ねた俺たちが弁当からそれぞれ一品剣城に与え、最近では剣城用のタッパーまで用意している)
例えば、外見や第一印象から暴力的に見えて、案外物の扱いが丁寧で物持ちが良いところとか。(この前教科書を借りたとき、入学してまだ半月も経っていないのに剣城のものはまるで受験生のもののように書き込みやらでボロボロだった)


例えば、今のような状況とか。


「剣…城?」


背中には柔らかな感触。こちらを見下ろす剣城の後ろには見慣れた天井が広がっている。押し倒された?あまりにも唐突だったため、鈍い頭をゆっくりと働かせる。しかし、状況を判断し終わる前に冷たい温度が服の下に潜り込んできたため慌てて思考を切断した。


「うわっ、うわっ、ちょっと剣城!?」


「うっせぇ。空気読めよ」


「読んでもこれはおかしいよ!」


急いで服の下に侵入した手を服ごとわしづかむ。すると、剣城は目を眇め、こちらでもしっかり聞こえる程はっきりと舌打ちをした。肉食獣にのしかかられたらこんな感じかな。不機嫌そうに細まる鋭い黄色にゴクリと唾を飲んだ。


「つ、剣城!俺たちまだ付き合って一週間も経ってないんだよ!…順序!!そうだ、ちゃんと順序を踏もう!」


「案外女々しい奴だなお前」


「め…っ!!酷い!!」


とりあえず、このまま流されては堪らない。グイグイと肩を押して、剣城を引かす。不満そうにこちらを睨む剣城から負けじと視線を反らさず、上体を起こして向かい合う。


「…剣城は違うかもしれないけど、俺は誰かと付き合うのは初めてなんだ。…せっかく、好きって同じ気持ちになったんだから、…えっと…」


恥ずかしさがジワジワと膨らみ、言葉を圧迫する。しかし、剣城は黙って俺の話に耳を傾けていた。ちゃんと真剣に俺の言葉を聞いてくれてる。その嬉しさが背中を押し、正直な思いが口から零れた。


「…俺は剣城と、ずっとこうやって一緒にいたいから。そういうの、俺大事にしたい」


剣城の言うとおり、自分は女々しい奴かもしれない。言い終えてからそう思う。夢を見すぎているのだろうか。恋愛という未知の領域が、キラキラと煌めいたものとして自分には映るのだ。誰かを好きになって、それに相手も答えてくれる。ドラマで見るそんな定番な筋書きが、自分にとって唯一恋愛とは何かを知ることができる情報源だったから。


『馬鹿ね天馬。そんなの絵空事。実際の物は違うわよ。もっと現実的で残酷なものなんだから』


少し前に、何がきっかけだったかは忘れたが、同じクラスの友人たちと放課後過ごしていると、話の種が偶々そういった類に移った事がある。その時、幼なじみは呆れたようにこちらを見ながら言っていた。今思えば、彼女はそういった恋愛をした事があったのだろうか。放たれたソプラノの言葉には妙に真実味があり、知ったかぶりで言うには重みがありすぎた。ずっと一緒にいた幼なじみの知らぬ顔を垣間見て、妙に淋しくなったのを覚えている。


彼女の言うとおり、恋愛とは醜く残酷なものなのだろうか。俺の想像していた、甘くてキラキラとしたあの印象など微塵も存在しないのかもしれない。それが少し怖い。


(…でも)


伏せていた視線の先に白い手が映った。冷たくて、少し筋張った手。先程直に肌に触れた感触を思い出して頬が熱くなった。恐る恐る手を伸ばして、剣城の手に触れた。ピクリ。白い手が微かに反応する。


「…初めてなんだ。こんなに誰かを好きになったの。だから、これから剣城といっぱいの初めてを体験したい。一緒に、剣城とな」


好きのその先にはなにがあるのだろう。ドロドロしてるかもしれないね。でも、もしかしたら、あのドラマみたいに本当にキラキラしてるかも。

繋いだ手の先が熱くなる。ああ、これも初めてだ。


「…悪かった」


低い声が呟くように小さく謝罪を述べた。視線を上げれば、剣城の顔は先程の不機嫌そうなものではなく、申し訳なさそうなものに変わっていた。


「女々しい奴だなんて言って悪かった」


再度言われる謝罪を黙って聞いていた。言葉の先には続きがあるのだろうと思ったから。
鋭い黄色が伏せ、口が開く。


「…順序とか、お前が言うそういうの良く解らない。…いつもこうだったから、恋愛っていうのはこういうもんだと思ってた」


確信的ではない、ぼやかした言い方だったが、剣城の過去が見えた気がした。追及するつもりはない。でも、矢張り悔しい気持ちが滲む。
でも、と今度は剣城はちゃんと言葉を続かした。


「…こんなに他人を欲しいと思ったのは、初めてなんだ」


胸が震えた。あまりにも直接的な言葉だった。ジワジワと視線から、触れた指先から熱くなる。どうしよう。こんなの初めてだ。視線が外せない。熱っぽい剣城の黄色。きっと俺のも同じになってる。ゆっくり顔が近づいて、自然と目をつぶった。


「なぁ、まずどうすれば良い?」


息がかかるほどの距離で、低い声が問い掛けた。解ってるくせに。止まってしまった距離が焦れったくて、その問い掛けには行動で示すことにした。




(回り道しながら)
(丁寧に)
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*涯 文色様*

涯様、お待たせいたしました!初々しさ満点な京天です。…初々しい?
とりあえず、天馬と剣城の恋愛価値観が全く違うと萌えるなぁと勝手に書いちゃいました。純情な天馬とちと乱れた剣城の健全なお付き合い。私は大好物だけど世間的には如何ですかね…!!
返品いつでも可能です!素敵なリクエストありがとうございました!!





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