稲GOss | ナノ
22222Hit/3
「京天死ネタ」
※アース・フェアリー様のみお持ち帰り可能です。
「俺、剣城に呪いをかけようと思うんだ」
今日はよく喋る。いつもなら、一言二言で息を切らすため、もう喋るなと直ぐ様布団に無理矢理寝かし付けるのだが、今日の松風は苦しさなど微塵もうかがえない。聞き慣れたか細い声もしっかりとしたものである。何故だろうか。肌が、何かを察するように酷く騒つく。
「…呪、いだと?」
「そう。呪い。俺の心も身体も、全部を掛けて、お前に呪いをかけるよ」
手が、頬に触れた。愛おしそうに撫でるその手は、かつての温かさが消え、酷く冷たい。その冷たさは触れた肌から染み込んで、何かが俺に伝える。予兆。これは理解してはいけない。
「りんごがあれば良かったね。針でも良いかも」
ううん。やっぱりりんごが良いなぁ。痛いよりも甘くて美味しい呪いの方が良いもんね。骨のようにやつれた手、何度も何度も撫でて、時折指先で擽る。
「…なぁ、もう寝ろよ。疲れただろ」
「………」
「明日もまた来るから、寝てくれ。ちゃんと、寝るまで隣にいるから」
「…駄目。明日じゃ、駄目だよ」
松風はこちらを見る。霞んでいた瞳が今日に限って色濃く鮮明だ。かつての、あの日々を思い出す。嫌だとあらがって、譲れないとぶつかって、割り込んで、引っ張って、一緒に走った、あの日々。
まだあの手の温かさを憶えていて、求めて止まない自分にその記憶は嫌でも現実を突き付ける。
(なんで、今日に限って…っ)
目の奥が熱くなる。やめろ。やめてくれ。今はその瞳は見たくない。だって、解ってしまう。
思わず目をつぶった。情けない。それでも、これ以上見ていたら、きっと自分はこの事実を理解してしまう。駄目だ。駄目だ。絶対に気付いてはいけない。
目蓋の裏は赤みを帯び、それでもあの藍鼠が途切れた事に安堵した。しかし、それは頬を包んだ冷たさに掻き消される。
松風が許さなかった。
「剣城、お願い。目、開けて」
「…っ、」
「俺を見て。ねぇ、俺を剣城に映してよ」
「やめろ、放せっ」
「もう今しかないんだよ!!」
痛々しい声色だった。数年ぶりに聞いた相手の大きな声に思わず瞳を開く。目の前の松風は泣きそうな顔をしていて、直ぐ様相手はゴホゴホと肩をひどく揺らしながら咳き込んでいる。やはり先程の声は無理に出したようだ。ヒューヒューとか細い呼吸音に我に返り、枕元にあるナースコールに手を伸ばした。しかし、ボタンを押す前に、伸ばした手を松風が掴んだ。フルフルと咳をしながらも首を振って、握る手に僅かだが力がこもる。
「…お願いだから…っ」
(ーーー嗚呼)
もう逃げられない。松風は、覚悟してしまった。全身を襲う冷たさと同時に、漠然と終わりを感じた。奥歯を噛み締め、松風と向き合う。松風は青い顔ながらも嬉しそうに笑った。
「ありがとう。ありがとう、剣城。ごめんな」
謝るくらいならやめてくれ。言葉にせずに心で苦く呟いた。触れていた手が優しく自分の手を握る。昼下がりの白い光が部屋を支配して、怖いくらい普段どおり穏やかな時間が流れる。普段どおり。俺たち以外。
「きっと、剣城は優しいからさ、俺がいなくなっても、俺を想ってくれるだろうね」
中学校から出会って、ずっと今日まで一緒に過ごしてきた。お互いを理解するには十分なくらい、深く、広く、長く。だから分かるよ。困っちゃうくらいにね。
「だから、そんなお前に呪いをかけるよ。俺の全部をかけて」
握った手を持ち上げて、松風は俺の手に唇を寄せた。柔らかい、そしてそこだけは昔と変わらない温かさ。
「…幸せに、なって。俺がいた時よりもっと、もっと」
俺が出来なかった事、全部剣城は経験して。大人になって。大切な人を見つけて、結婚して、子供が出来て、あ、サッカーは続けてよ。これは絶対だよ。子供に教えてあげて。きっと、お前の子供だから、サッカーが好きになる。もしかしたら、雷門に入るかも。俺たちみたいに、あの雷門に入って、仲間と一緒に走るんだ。きっと。きっと。
「俺なんか忘れるくらいに幸せに生きて」
なんて、勝手な話だろう。目の前の彼を忘れる事など出来るはずないのに。言い様もない膨大な感情が頬をつたった。松風は笑っていた。青い顔で、何でもないような話のように楽しそうに笑って、頬を濡らして。
あんなにも忙しなく動いていた声が、突然止まった。手の平に触れた唇が微かに震える。でもね。そう紡いで、もう片方の手も重なり、俺の手をギュッと握り締める。
「冴え渡る空の日、無性に淋しくなったら、きっと風がお前の背中を押すから」
その時には、どうか俺の事を思い出して。そう言って、手の平から離れた松風は顔を寄せた。ゆっくり唇を重ねて、離れる。温かい、こいつの本当の温度。
微かに、甘い果実の味がした気がした。
「これが、俺の呪いだよ」
(さようなら世界)
(私の愛しい呪われ人)
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*アース・フェアリー様*
まず…すみません。天馬、死んでねぇ…。取り敢えず、天馬が無くなる前日を想定しました。きっと天馬は剣城をあの時のように、誰かによって縛り付けたくないだろうなと思いました。まぁ、あの時ってのは兄さんの件なんですが。兄さんはそんな事微塵も望んでなかったですが。だからそれならいっそ、自分のこと忘れてほしいだろうな。忘れて、幸せになってほしい。それでも、偶に思い出してほしい。みたいな感じです。小さな我儘を呪いだなんて大層な表現でぼやけさせました。てなイメージで書きました!
死ネタって、部類的にはどこから死ネタになるんだろう…私の中ではこれも死ネタなんです!どうか受け取って下さい!勿論、返品可です!!!
リクエストありがとうございました!!