稲GOss | ナノ




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「優しい雰囲気な鬼輝」
※璃子様のみお持ち帰り可能です。



サッカー棟にある監督室の扉の前で、呼吸を整える。ここに来ると、何故だかいつも緊張する。一息ついてから、扉を数回叩くと、落ち着いた低音が、どうぞと入室を許した。恐る恐る扉を開くと、部屋の主は資料から顔を上げ、影山か。と眉を少し和らげた。


「こんにちは」


「どうした。今日は部活はないと昨日伝えたはずだが?」


「いえ、あの…監督に渡したいものがありまして…」


「…渡したいもの?」


「渡したいものというか…その……ご馳走したいものです」


軽く首を傾げる監督に笑みを浮かべながら頬を掻く。やっぱり覚えてないかな?ずっと前の会話だもんな。少し残念に思いながら、背中で部屋の扉を閉めた。


「…まぁ、せっかく来たんだ。珈琲でも入」


「だ、駄目!駄目です!!僕にやらせてください!」


立ち上がろうと腰をあげた監督を慌てて制す。そんな事をされたら、ここに来た意味が無くなってしまう。


「…いや、客人にさせるわけには」


「いいえ客人なんて!僕は監督の教え子ですよ!是非僕に任せてください!」


教え子。自分で言っておきながらその事実にこっそり感動する。そうだ。僕はあの鬼道有人の教え子なのだ。しかし直ぐ様我に返り、監督は僕に構わずに仕事に専念してください。と逃げるように給湯室に入った。監督は終始茫然とこちらを見ていた。呆れたかな?でもここは譲れない。興奮で熱くなった頬を数度叩いて、肩に掛けていた雷門指定のスクールバッグに手を掛けた。中を漁り、目的の物を出す。茶色い粉が入った小さな瓶を見て、頬がゆるんだ。


我が家では父は珈琲が趣味で、よく自分で豆を削って飲んでるんです。最近は良い豆が手に入ったって喜んでました。そんな何気ない事を監督と一緒にいるときに話した。他意はない。ただ、少しでも監督と一緒にいる時間が伸びろと、小さな脳をフル回転させて浮上した内容が偶々それだっただけ。普段は何かを書き込みながら相槌しか打たない監督が、その時だけは緑色の眼鏡をこちらに向け、笑みを浮かべて言ったのだ。


「そうか。俺も是非飲んでみたいものだな」




(初めて、監督が興味持って言ってくれたんだ)


もしかしたら、あの返事はこちらの気を遣ったもので、本気ではなかったかもしれない。それでも、監督に飲んでもらいたいと思った。ポットに水をいれ、沸騰させる。設置された棚の中には、学校のものにしては高価そうなカップが数個置かれていた。出来るだけ慎重に扱い、給湯室にあったコーヒーサーバーにドリッパーを設置して粉を入れた。お湯をゆっくり入れると、その瞬間香ばしい香りが鼻を擽る。


(お父さん、ごめんね)


実はこの粉は父がいない隙を狙って勝手に貰ってきたものだ。随分と大事に飲んでいたから、もしかしたら本当に中々手に入らないものなのかもしれない。この場にいない父に謝罪を述べながら、出来上がった珈琲をカップに移し、お盆に乗せて給湯室を出た。

部屋に戻ると、監督は先程自分が言ったとおり、黙々と資料を読んでいた。良かったと安堵する反面、先程の自分の身勝手な対応に冷や汗が浮かぶ。お盆を持つ手に力を込めて、監督の元へ足を動かした。気配を察し、監督は顔を上げる。こちらの顔を見てから、手元にある物に視線を落とす。


「…お前が淹れたのか?」


「は、はいっ」


今更ながら襲ってきた緊張から、声が裏返った。情けない。誤魔化すようにカップを急いで監督の前に置いた。監督は黙ったままカップを見つめている。心臓が酷く五月蝿い。


「…ぁ、ミルクと砂糖いりますか?」


「いや、結構」


長い指がカップを持ち上げる。流れるように口元にカップを持っていき、香りを嗅いでから、一口含んだ。その動作すら優雅に見える。ゆっくり更に一口含む。その時間が長く感じられて、思わず唾を飲む。どうかな?美味しくないのかな?淹れ方はここ数日、父のやり方を食い入るように見て、練習したから合っているはずだけど。カップを置いた監督はこちらを向いた。余程不安が顔に出ていたのだろうか、監督は苦笑に近い笑みを浮かべて、口を開いた。


「上手いな」


聞いた瞬間、体内がフワリと柔いだ。嬉しい。心の底からそう思う。口元が弧を描いて、随分と今の自分の顔は情けなく緩んでいることだろう。更には、えへへと声まで漏れて、お盆を口元に持っていく。良かった。淹れた甲斐があったものだ。ポカポカと身体が温かい。


「この味は、ここに置かれているインスタントのものではないな」


「あ、はい。僕の家から持ってきました」


「…あぁ、以前言っていた父親の物か」


覚えていてくれた。目を見開く自分に監督は首を小さく傾げた。違ったか?そう問い掛けられ、慌てて首を振る。


「いえ、そうですけど」


「けど?」


「えっと…覚えていてくれたとは思わなくって」


「…覚えているに決まってる」


お前の話だからな。そう何でもないように答えた監督に、不覚にも目の奥が熱くなった。大人って狡い。この人は狡い。こうやっていつも自分が欲しい言葉を与えてくれる。ユルユルと揺れ始めた視界を更にお盆を持ち上げる事で監督から隠し、ありがとうございます。とお礼を述べた。それでも監督はこちらを察したのか、小さく息を吐いて、コツンとお盆を軽く叩くものだから、やっぱり大人って狡いと、今度は相手に伝わるように声に零した。




(貴方の何気ない優しさが)
(いつまでも僕を幼くさせる)
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*璃子様*

お待たせいたしました!優しい雰囲気な鬼輝です!!なんだか、鬼輝というより鬼+輝みたいなっちゃいました…無念!!
この鬼輝は、まだお互いぎこちなくって、輝くんが自分の幼稚さに悶々してるイメージで書きました。余裕に見えるけど、鬼道さんもガチガチです!!

我が家の稚拙な文章で鬼輝が好きになって頂けたなんて…此れ程嬉しい誉め言葉ありません!ありがとうございます!
いつも優しくお声を掛けて頂いてるのに、私の意気地なさのせいで、こちらからお話できなくてすみません…。でも、璃子様と相互させて頂けて、更にはこうやって声を掛けて頂いて、とても嬉しく感じてます。
これからもこんなサイト、こんな私ですが、よろしくお願いします!






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