稲GOss | ナノ
(雨天)
※ネタバレ有。
震える暖かな手がこちらを握り締める。天馬。白いベッドに横たえる太陽の顔は酷く怯えている。何が怖いの?死ぬのが怖いよ。渇いた唇がわななく。
「生きたいだなんて、思ったことなかったんだ。今まで死を受け容れていたから。でも、天馬、おかしいね。死ぬのが、こんなに怖いだなんて、今更…っ」
時間が刻々と近づいてくる。手術を前に、太陽が怯えてる。当たり前だ。今日が彼の生死をわけると言っても過言ではないのだから。
死ぬって何だろう。高々十数年、大した怪我病気もなく、健やかに日の下に生きてきた自分にはその意味を理解できない。その恐ろしさも同様に。だから、太陽の恐怖を解ってやる事は出来ない。
いつも自分はそうだ。キャプテンの涙も、剣城の苦悩も、そして、太陽の恐怖も何も知らない。何も。
(…それでも、俺は)
握られた手に力をこめる。自分よりも白くて細い手は、あの試合で自分に力強くぶつかってきた相手だとは思えない程脆かった。
「太陽、俺と指切りしよう」
「え…」
「太陽が怖いなら、死に負けないように、俺が太陽を縛ってあげる。絶対に戻ってくる事、俺との約束」
握る手を解いて、小指をからませる。涙で揺れる瞳に顔を寄せ、鮮やかなオレンジに隠れた額を自分のそれで触れる。
「待ってるって、言っただろ?でもね、俺、待つのって嫌いなんだ。本当ならこっちから迎えに行きたいくらい。でも仕方ないね。今回は俺が待ってる」
触れ合う小指と額から太陽の体温が伝わる。温かいね。生きてる人間の温かさだ。
「生きて、帰ってきて、太陽。俺を置いてきぼりにしないで」
真っ白な光り差し込む昼下がりの約束。太陽は光を湛えた涙一粒零して、小さく頷いた。もうすぐ、彼が闘う時間がやってくる。
待ってて。囁かれた声は触れ合う唇の隙間から、ポロリと零れて溶けていった。
(指切りげんまん)
(ここで、ずっと待ってる)