稲GOss | ナノ
(京←天♀)
(…剣城は何も分かってない)
二歩も三歩も先を行く薄くはあれど広い背中を睨む。先程から広がるばかりの距離に両頬を膨らます。剣城は分かってない。男と女の違いというものを。そう、何も。なぁんにも。
例えば、女の子の足が男の子よりも遅い事。
「…剣城のばぁか」
普通の声の大きさで投げつけた暴言すら聞き取れないくらい、あの背中は離れてしまった。すきま風の入らないようにとグルグルに巻いた水色のマフラーに顔を埋めて、もう一度馬鹿と言った。悔しいから、意地でもこちらから距離を詰めてなんかやんない。むしろ、動かしていた足を鈍くする。小さくなっていく背中に目の奥が熱くなるのを感じた。剣城。気付いてよ。私、泣きそうだよ。
「…こっち、向いて」
背中は止まらない。
(分かってない)
(分かってくれない)