稲GOss | ナノ
(天+α)
夢を見た。真っ青な空から、青に栄える真っ赤な翼をはためかせて、俺の元にゆっくりと降り立ったその人。
いや、人じゃない。人ではない何か。淡い赤の肌をして、しっかりとした強靱な身体を金色の輪が覆ってる。空色の瞳が、こちらを見下ろす。
「…君、は」
何故だろう。恐怖は感じなかった。寧ろ、安堵感すら生まれてる。童話に出てくるような、現実には存在しない生物。見下ろす相手に手を伸ばせば、指の先を風が通り抜けていった。
「っ」
柔らかな風はみるみるうちに荒れていき、思わず目を閉じた瞬間、伸ばしていた指先を何かが触れた。指の先から流れる音。伝わる声。
「…、はぁっ」
けたたましい電子音に視界が切り替わった。いつもの見慣れた天井の木目。ああ、朝か。まだ重い目蓋を無理矢理開いて、布団から体を起こす。
母が一人暮らしをする際にくれた、あまり趣味の良いとは言えない目覚ましを止め、部屋が沈黙に支配された。窓から射し込む東日に目を細めて、晴れ渡った空を見つめた。冬の空は少し色薄くて、それでもその深さは変わらない。
「…俺も、会いたい」
もうすぐさ。そう伝わった指先を握って、目蓋に今でも焼き付く赤い翼を思った。
(赤い予兆)
(君に会いに行くよ)