稲GOss | ナノ




((拓)←茜+水)



カシャリ。軽快な音が鳴る。視線をやると、友人である茜がピンク色のカメラを構えて、もう一度カシャリと音を立てた。


「またお前、神童撮ってんの?」


「うん。今日のシン様楽しそう」


なにか良い事あったのかしら。素敵素敵。菫色がレンズを覗きながら嬉しそうに細められる。カシャリ。細い指がシャッターを切る。


「なぁ茜、そんなに撮ってて飽きねぇの?」


好きならさ、レンズなんか通さないで、直に見れば良いじゃんか。せっかくこんなに近くにいるんだから。すると、レンズを覗いていた茜はいつも通りのゆっくりとした動きでこちらを見た。菫色を瞬かせて、水鳥ちゃん。と自分よりも高い声で私を呼ぶ。


「本物のシン様は私を見てくれないの」


こんなに近くにいるのにね。愛らしく首を傾ける茜はいつも通りの読めない笑みを浮かべてる。随分とこの友人と一緒にいるけれど、未だに彼女の思考は読むことが出来ない。唯一知っている事といえば、写真が趣味な事と妙に鋭い事。
そして、神童が好きな事。


「シン様は私を見てくれないの。いつも真っ直ぐ前を向いてらっしゃるから、後ろにいる私なんか気付かないの」


指がレンズを撫でる。綺麗に切られた爪先が丸いレンズをなぞって、それを見つめる茜の伏し目が彼女を儚く見せた。


「だけど、写真で撮ればシン様は私のものになるの。写真の中のあの人は、私だけのものなの」


こっちを見なくても、触れなくても、シャッターを押せば彼の一瞬を手に入れられる。それがどんなに素敵な事か。


「シン様が私を見てくれなくても良いの。私が見てるだけで十分満たされるの」


笑う茜は本当に幸せそうだった。恋をしている友人は知らぬ間にこんなにも綺麗になった。それでも、友人の恋は何処か歪んでいて、それでいて神聖に感じる。なあ、見てくれなくても良いなんて嘘なんだろ。だったらなんでお前はそんなに写真を撮るんだよ。本当は苦しくて、あいつが欲しくて仕方ないんじゃないのかよ。見返りを求めない無償の愛なんて、そんなのまるでどこかの神様みたいじゃないか。


カシャリ。軽快な音が鳴る。いつものように響く掛け声とボールが飛び交うグラウンドの景色から、少し離れた錆びれたベンチで今日も彼女は写真を撮るのだ。




(フィルムに焼き付けて)
(色褪せるまで貴方は私のものなの)





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