稲GOss | ナノ




(京←天)



人間にはパーソナルスペースという無意識な縄張りがあるらしい。見知らぬ他人ならより遠く。親しい人間ならより狭く。国によって、人によってその距離は様々ならしいけど、同じ木枯らし荘に住むアメリカ人のジョニーによれば、日本人はシャイな人ばかりだからパーソナルスペースが広すぎるそうだ。


(剣城はきっと、俺の10倍以上だな)


目の前で自分を睨み付ける相手を見て思う。まるで威嚇するように鋭い瞳。その黄色は確かな拒絶を滲ませてる。このまま、俺が一歩でも近づこうものなら噛み殺してやると語っている視線に目の奥が熱くなった。剣城。名を呼べば不快そうに口元を歪ませて、黙れよ。と唸った。


(酷いや。俺の気持ち、知ってるくせに)


知ってるくせに。知ってるからこそ。剣城は誰も近付けさせない。拒絶して、傷付けて、遠ざける。唯一彼が心を許すのは、血を分けたあの白い兄だけなのだろう。
殴られた頬が熱い。痛いのは俺の方なのに、何で殴ったお前が痛そうな顔をするんだよ。


「…お願いだよ」


傍にいかせてよ。擦れる声に剣城はまた痛そうに顔を歪めて、また一歩と離れていくんだ。




(来ないで)
(温もりが怖いの)





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