稲GOss | ナノ
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(天京天)
智豆様のみお持ち帰り可能です。
「そんなところにいて苦しくないのか」
振り返って、声の主を見ると、いつも寄っている眉間の皺を更に深くして、苦々しくこちらを見ていた。なんのこと?問うと、鋭い目を細めて、ゆっくりと口を開く。
「そんなに風が強くて、お前は苦しくないのか」
俺だったら苦しくて、そんなところいられない。風で音が掻き消される、目が霞んで前が見えない、呼吸すら辛くて仕方がない。
「いつか、自分ごと吹き飛ばされて何もかも失いそうだ」
藍鼠色が瞬いて、首を傾げた。ビュウビュウと吹き付けては流れる風が身体を撫でて、優しく通り抜けていく
「苦しくないよ。大丈夫だよ」
風は何も取ってなんかいかないよ。剣城の大事なものも、剣城自身も。一歩近づくと、剣城はピクリと肩を震わせた。いつも誇り高い黄色の瞳が微かに不安の色を滲ませて、こちらを覗く。
「怖くないよ」
怖いなら手を繋いであげる。見えないなら手を引いてあげる。苦しい?そんなはずがない!
まるで、風に優しく抱き締められているようで。
「おいで、剣城」
ゆっくりで良いから。そう言って、手を差し出せば剣城は戸惑いながらも一歩一歩近づいて、その白い手を伸ばした。触れた途端、風が剣城を包む。ギュッと固く目を閉じた剣城の手を引いて、抱き締めた。
「ねぇ、俺の声聞こえる?」
少し間を置いて、剣城は小さく頷いた。繋いだ手と反対の手が背中に回る。それが嬉しくって、繋いだ手に力を増す。
怖くないだろ?大丈夫だよ。ここは案外心地良い。
(呼吸の仕方を)
(教えてあげる)