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(拓天)



良く食べる。自分の横で嬉しそうに口を動かす後輩を見ていて思った。三度目の休憩時間、小腹が空く時間帯を見計らったように、マネージャー達が山ほどに積み上げられたおにぎりと共に迎えてくれた。腹が減ったと練習中にも零していた浜野などは涎を零さんばかりに口を開き、脱兎のごとくおにぎりの山に飛び込んでいった。

そして現在、円を囲んでの間食タイムである。1人3つですよぉ。5つほど腕に抱いていた浜野に注意を施す空野の声を後ろ耳で聞きながら、一口食べる。米の甘さと程よい塩加減が口内に広がる。うまい。素直にそう思った。


「おいしいですね。キャプテン!」


自分が今思っていたことと同じ事を後輩は嬉しそうに話しかけてきた。少し驚いたが、あぁ。と答えてやると、天馬は更に笑みを濃くして、再びおにぎりに齧り付いた。


「良く噛めよ」


「わはってまふよぉ」


もぐもぐと口を動かして答える天馬は、本当に歳相応な、いや、むしろそれ以下の子供のようで、自然と笑みがこぼれた。
自分をありのままに見せ、体全身で相手と向き合い、語りかける。松風天馬と言うこの後輩はそういう人間だった。初めは心底疎ましく思った。今の悲惨な環境など何も知らず、サッカーはすばらしいのだと謳歌するその姿が、その無知さが酷く憎らしかった。やめろ、理解しろ、いなくなってしまえ。目を背けて、全てを拒絶してきた自分にもこの後輩は真正面に立ち向かってくれた。その小さな体で精一杯手を伸ばしてくれた。何も隠さず、臆さず、強い意志を持って。それにどれほど自分は救われた事か。


先ほどからこちらの視線に気づいていたのか、天馬はチラチラと気にするようにこちらを見ている。なんだ?と逆に問いかけてみると、えっ、と戸惑った声が
漏れた。


「どうした天馬」


「どうしたって、き、キャプテンがずっと俺の事見てるから…」


「見ていたらいけなかったか?」


「うぅ…そういう訳じゃないんですけど…」


あの…えっと…と言葉を濁す天馬の顔はほのかに赤い。本当に表情が良く顔に出る奴だ。手を伸ばして、先ほどから口の端についていた米粒を取ってやる。あっ、と驚いたような声を上げる後輩に、この理由をやるつもりはなかった。


「俺は、お前の食べてる顔が好きなんだよ。天馬」


顔を近づけて、小さな声で呟いた。周りに聞えないように。この愛しい後輩にだけ聞えるように。天馬ははじめポカンとした顔を浮かべていたが、その顔はドンドン赤くなっていき、恥ずかしさのためか、最後は顔を俯かせておにぎりを黙々と食べ続けた。それでも顔を背けないのは、自分への配慮だろうか。
そんな後輩が愛おしくって、未だに指に付いた米粒を口に含んだ。甘さと辛さを含んだ青春の味だった。




(わあ!何食べてるんですか!?)
(食べ物は粗末にしてはいけないだろ)





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