(名前変更)







太陽が照りつける音。蝉の鳴く声。たまに通っていくトラックの走る音。はしゃいでいるちびっこ達の騒ぎ声。


「あーもう、うっさい」


暑いだけでも腹が立っていると言うのにこれにプラス騒がしいときた。これはそんじょそこらのダブルパンチより強力的な攻撃であり、私の体力や精神力を消耗させていくのだった。


「おっちゃーん、かき氷ブルーハワイ」


ただ家に居てはつまらないし、親に勉強しろとか何かと言われるのは面倒なので最近は気が付けばここに居る。最早、住み込んでいるのではないかと言うくらいの頻度。古びたテーブルに項垂れながら近くの扇風機をこちらに向け冷風を浴びる。


「あ、おっちゃん」

「あん?」

「テレビ新しくしたんだ?」

「あったりめーよ、だって7月からポテチが始まるんだろ?」

「ポテチじゃないよ地デジだよ」

「箱形じゃ見られなくなるんだろ?」

「チューナーつければ見れるらしいけどね」

「それはそれで面倒そうだから買っちまったよ」

「ふーん」


だから何となくおっちゃんが上機嫌だったわけか、と確信した。いつもなら店に来た時点でおっちゃんが「来たな糞餓鬼」とか「ガッコ行け」とか文句を浴びせてくるが考えても見れば今日は何も言われてない。さてはこれを買ったからか。分かっちゃったぞ、天才名前ちゃんは閃いちゃったぞ。


「おっちゃん、このテレビ超かっこいいじゃん」

「だろ?なかなかイカすだろ?」

「超イカす!羨ましいわー、おっちゃんすげー」

「へへっ、そんなにすげーか」

「超すげーから今までのツケ、チャラにして?」

「きっちり払ってもらうぜ」



それは即答だった。光の速さで「きっちり払ってもらうぜ」、なんだこのオヤジは。気分が良いからチャラにしてやるよとか言ってくれるのかと期待してたのに全く残念だ。「えー、じゃあ10割引にして?」と今度は交渉にかかると「それもチャラにしてって言ってるのと同じだろが」とその辺はしっかりしているおっちゃんは私の言葉のトリックに引っ掛かるほど馬鹿ではないようで、なんなく撃沈。出世払いは本当に成し遂げなければいけないようだ。


「そう言えば、白髪の天パは?」

「銀時のことー?」

「今日は一緒じゃねぇようだな」

「うん。今日は用事があるっぽい」



毎日一緒にいるわけではないが、この駄菓子屋に来るときは何故か銀時と二人で来る事が多いのでおっちゃんには私と銀時二人での印象が濃いらしい。私が暇だなーと呟きながら携帯をいじりはじめると、出入り口の方から声がした


「おっちゃん、やってるかィ?」

「おぅ、沖田総悟!よく来たなー!」



明らかに私が来店した時とは態度や表情が違う。そして何故フルネームで呼ぶ?項垂れた体勢のまま顔だけ向けて話を聞くことにした



「最近急に暑くなって大変ですよねェ、毎日店開けてるのも楽じゃねーだろィ?」

「まあな。でも何十年も前から店開けて閉めての繰り返しだから、今更ぱったり辞めちまったら俺の生活リズムが狂うからよォ。これもいい運動だと思ってるよ」

「いい心掛けですねィ、俺もおっちゃんを見習わなきゃなァ」

「ははっ、それほどでもねーよ。」

「ラムネあるかィ?」

「あるよ、ちょっと待っときな」



おっちゃんが店の奥からビンに入ったラムネを持ってきた。なんだか上機嫌そうなおっちゃんが気に食わない。なんだよ私が来たときより嬉しそうじゃないか。総悟から代金を貰い何やら世間話をしている生き生きとした表情に私は「けっ」と視線をテレビに移した



「そう言えばそこの不良女は何してんでィ」

「不良女って言うな、私には名前がありますー」

「何してんでさァ」

「暇してんの、暇すぎて死んでたとこ」

「じゃあそのまま死んでろィ」

「いやいや、そこは『暇なら俺と遊ぼうぜ!』みたいな流れでしょ」

「遊んでやっても構いやせんが、ちと俺の遊びはバイオレンスだぜィ?」

「あ、じゃ遠慮しときまーす」




声をかける人を間違えたんだ。大体総悟と遊んだらどうせSMっぽくなって身体がいくつあっても足りないようなことになるんだろう。そんな事は目に見えてるから丁重に断った。これで私の身の安全は確保されたも同然、ほっと一安心していると総悟が「残念」と肩を落とす演技をした



「それは残念でさァ、」

「なにがよ」

「丁度今から土方アノヤローの家に行こうと思ってたんですが?」




その、人を試すような表情、それから聞き方が気に食わなかったが土方くんの名が出てしまったら行かないわけがない。なぜなら妙ちゃんには近藤くん、銀時にはさっちゃん、そして土方くんには私が!と言うほど有名なストーカー名前だから!普段は無気力無関心ではあるが、もう彼の件に関しては別問題である。誕生日も血液型も星座も好きな食べ物も全て調べ済み。英語の単語とか日本史の年号とか全然覚えられないけど、好きな人の事は意外とすんなりインプットされるよね。そういう点については近藤くんやさっちゃんよりも相手を監察する観察力が優秀だと言っていいんじゃないかな。勉強は全然優秀と言えないけども。



「どうすr」

「行く!」




即答。さっきのおっちゃんにも負けないくらいの速さでいきなり言い席を立った私に総悟はどや顔をし、おっちゃんは驚いた顔をした。きっとダラダラしてばかりの私からはこんなにシャキッとすることに想像がつかなかったんだと思う。




「そうこなくっちゃねィ」

「早く行こうよ」




胸の高鳴りを抑えて、灼熱へ駆け出した真夏日。










[*前] | [次#]
[back]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -