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あのあと、お化け屋敷の壁が壊れたと思ったら土方くんと銀時が二人同時に壁を蹴り破って逃げてきた。しかも「ギィイイヤァアア」なんて声にならないような悲鳴を上げて。

それでも尚、つまらない事で言い争いを続ける二人は「お前の方が先に騒いだ」とか「俺はお前の悲鳴にビックリしたんだ」とか、断じてお化けなんかにビビってないということを訴えている。

「これはみなさんお揃いでェ」
「ふ、副長!また喧嘩ですか!?」

危うく取っ組み合いの喧嘩になりそうだったところに、焼きイカを持った総悟とその後ろに山崎が現れた。山崎なんて土方くんの怒った姿にあたふたしてるけど、口の周りに青のり付いてるからね。結局、銀時と土方くんはお互いの胸ぐらを掴み合い拳を振り上げた時点で山崎や坂本に取り抑えられ渋々怒りを治めることになった。

「高杉先輩じゃないっスか!」

それからそのあとに来島も万斉くんもロリコン武市も来て、それに遅れて妙ちゃんと九ちゃん…と東城、そして新八、定春に乗って巨大な綿あめを喰らう神楽も合流して、もうすぐ始まる花火を見ることになった

「結局、クラスのみんなが合流したね」
「ったく目障りな奴等がぞろぞろと…んぐっ」
「ダメだよそんなこと言っちゃ」

憎まれ口を吐き捨てようとした土方くんの生意気な口にリンゴ飴を突っ込んでやった。一瞬ムッとしたが、私が「このメンバーで居られるのもあと少しなんだから」と呟くと、リンゴ飴を離して「それもそうだな」と言った。土方くんを宥めるために言ったはずなのに、気が付けば一番その言葉に寂しさを感じていたのは私だった。

「あっ花火アル!」

定春の上に乗った神楽が夜空を指差して叫んだ。その刹那、黒かった空に一気に花火が舞って数秒後に遅れてドーンという花火独特の音が鳴り響く。やっぱり皆がこれを楽しみにしていたようで花火がなると「おぉ!」や「綺麗」などと各々が空に釘付けだ。

ふと横を見れば土方くんの横顔が目に留まった。やはり土方くんも花火に夢中らしい。ああ、横顔が綺麗。すっかり見惚れていて花火を見る暇もなく直視してしまっていると流石に気付いた土方くんも私のほうを見た。その瞬間に私はクルッと顔の向きを空に変える。あーずっと見てたこと勘づかれたかな、気付かれたよね確実に…うわぁ恥ずかしい!超恥ずかしいよ!

「たーまやー!アッハッハッ!」
「うるせーぞ毛玉」
「花火っちゅーもんは楽しまなきゃァ駄目じゃきー、そう思わんか高杉よ」
「思わねェな。とにかく真横で叫ぶな、鼓膜が破れる」
「冷めた奴じゃのー高杉は。そんなとこもわしゃ嫌いじゃないぜよ!」
「…うぜェ」


9時。何千発も打ち上げられた花火が終わり、周りに集まっていた銀時達や神楽達もそれぞれ出店のほうに引き返していった。神楽なんて花火が始まる前もたくさん食べてたのに花火が終わった途端に「お腹空いたアル」って言ってた。あれは鉄の胃袋、ブラックホールさながらだ。

「俺達はどうする?」

まだ花火の余韻に浸っていた私に投げ掛けられた質問。「うん、綺麗だった」と返答してしまい土方くんは意味がわからないという表情をした。

「俺達はどうするんだ?」
「あ…、えーと、その、帰ろっか!」

私の家に門限は無い。でもあまり帰りが遅くなっても後々面倒なことになりうるし、なにより土方くんを夏祭りに半強制的に付き合わせといて、更にいつまでも付き合わせてしまっては申し訳ない気がしたから帰ることにした。

出店で賑わう境内を過ぎ、階段を降り、鳥居をくぐると一気に人気が減った。蛙やコオロギがそんなに遠くはないところで鳴いている音が帰り道に響いていた。そんな中、私は今更ながらあの日無理矢理に多忙な土方くんを誘ったことに後悔と罪悪を感じていた。理由は、土方くんが今歩いている途中に然り気無く欠伸をしたことだった。決して彼はそんなつもりでしたわけではないのだろうけど申し訳無さだけが募る。

「土方くん」
「あん?」
「今日は来てくれてありがとう、それと…ごめんね」
「なんで、謝るんだよ」

ザリッと砂利がなり、歩く足が止まる。少し後ろで俯いた私に土方くんは振り返り、歩み寄ってもう一度聞いた。

「ごめんねってなんだよ」
「無理言って誘ったのに、楽しんでるのは私だけで土方くんを振り回してばかりで少しも楽しませられなかった」
「そんなことねーよ」
「私は楽しかったよ?凄く、凄く。だけど土方くんをまた疲れさせちゃったね」

ごめんなさい、と頭を深く下げた。微妙に帯がお腹に食い込んで痛いけどそんなこと気にしてる場合ではない。気付けば下駄の鼻緒も切れてたし。いつ切れたんだろう、よくここまで気付かずに歩いてきたな私。すると頭を下げて鼻緒をじっと見ている私の視界に入ってきたのは、しゃがみ込んで下から顔を覗く土方くんだった

「泣いてんのかと思ってビビったぞ」

ホッとした表情をした土方くんが「あのなぁ」と何かを言いかけて、一度深呼吸をする。それからちょっと目を反らして、首をポリポリ掻いた。

「俺があんまこういう事言うキャラじゃねェってことくらい知ってんだろお前」
「な、何が?」
「た…、楽しかった、よ。…俺も。」

照れながらも確かにそう言った土方くんは、余程恥ずかしかったのか立ち止まった私を置き去りにし、スタスタと先を歩き始めてしまった。わわわっ、と追い掛けようとしたがいつものように上手く走れず、つまづいて危うく転びそうになった。そして「あ、鼻緒が切れてたんだった」と思い出し、下駄を脱ぐ。

「名前っ、何してんだ!」
「下駄が壊れたんで裸足で歩くから私」
「どこが壊れたか見せろ」
「鼻緒が切れた」
「はぁ、んじゃ…乗れ」

背中をこちらに向けてしゃがんだ土方くんはどうやら私を背負ってくれようとしている。

「え、いいよ!それこそ申し訳ないし!」
「仕方ねーだろ、裸足で歩いて足ケガしたらどうすんだ」
「オキシドール塗ってバンソーコ貼る」
「いやそういう問題じゃなくて、いいから乗れよ」

グイッと腕を強く引っ張られて背中に身体を預けると、軽々と背負われた。男の人の力って馬鹿に出来ないななんて思った。

「なんか…ホントごめん」
「謝るなら、来年は鼻緒がしっかりついた下駄を履いてこい」
「はい気を付けます…って、え!?」

来年!?来年も一緒に行ってくれるって事ですか?そうですよね神様!えええええっ!嬉しすぎて倒れるよ!涙が出るよ!っていうより鼻血が出るよ!

「ナイスエンジョイサマー!!!」

土方くんに背負われ進む帰り道。あまりにもベタだけど、この時間がいつまでも続けばいいなんて思ってしまった。喜びの雄叫びを発しながら星が瞬く空に手をかざし、そう願うも残念ながら虚しく夜空の彼方へ溶けていった





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