(名前変更)
学校は四六時中「勉強勉強」尽くしで鬱陶しい場所だけど、夏は快適な場所でもある。涼しいので太陽しのぎの避難所ともなるのだ。先ほどアイスを食べて涼んだばかりなのに学校につくまでの間でまた汗がぐっしょりの銀時は肩にタオルを引っ掻けてゲッソリした表情をしている。
「銀時」
「んあ?」
「10歳くらい老けた?」
「うるせーよ」
「暑さで老けたんだね」
「俺が硝子のハートだって分かってて言ってるだろお前」
無駄に段数が多い階段を汗を流しながら上り漸く保健室へついた。白目を向いたザキを見たくて、その好奇心で暑い中ここまできた。そう、青春期の学生と言うものはほとんど好奇心と興味本意が原動力となるものであり、まさに私達が例に値する。総悟から銀時に送信されてきた画像では見たものの、やっぱり生で白目を向いたアホ面を見たい。期待を込めて保健室の白いドアを開けた。するとザキが既に回復していてこちらを見た途端に笑顔で手を振った
「旦那と名前ちゃん、来てくれたんだね。」
「なーんだ元気そうじゃん、つまらないね銀時」
「わざわざ汗水垂らして来てやったのにガッカリだよな」
「え…ちょ、ひどくないですか!?旦那はともかく、名前ちゃんまで」
「だってさ〜、ねぇ?」
隣の銀時に「ねぇ?」と同意を求めると「なぁ?」と同じ心境のような返しをした。冷めた表情の私達二人を見て戸惑いを表すザキはあたふたしている。
「さ、帰ろ銀時」
「そうだな」
「いやちょっと待ってよ!俺の扱いひどすぎませんか!」
「別に」
「名前はいつも誰に対してもこうだぜ」
保健室は涼しい。流石、病人が休養をとる場所に適した部屋だ。ひんやりとして心地がいい。でも例えどんなに灼熱の太陽光を防ぐ事が出来ても例え居心地が良くとも、そこに楽しい事が巻き起こるきっかけになりそうなものが無ければ、その場所はただの休憩所でしかないと私は思う。ただの保健室以外の何物でもない、それ以上でも以下でもない。私達はやはり10代という、やんちゃなお年頃だからもう少し刺激が欲しいのである。
「ザキは回復したって言ってもまたいつ倒れるか分かんない病み上がりなんだからまだ寝てなよ。銀時行こ」
「や、でも連載初めての登場だし俺だってネタ用意してないわけじゃないからもう少しいじってくれても…」
「てか総悟は?」
「いじれよォオオオ」
「総悟は?」
「もういいよ!殺せよ!どうせ俺なんて影が薄い人間なんだろ!いじる価値もない人間でしかないんだろ!」
「いや、ザキは空気」
「人間以下ァアア!?」
「うん、小学生の時からザキはエアー星の王子だと思ってたもん」
「どういう事それェエエ」
段々ザキのツッコミの声が大きくなってきて耳が痛い。初の登場だからってそんなに力まないでほしいのが本音。て言うか回復したばかりで頭に血が上るほど騒いで大丈夫なんだろうか。と思っていたら案の定、クラクラしたあとに再び真っ白なベッドへ倒れ込んで行った
「あ、白目向いてる」
「だからそんな騒ぐなって俺は言ったのによォ」
「言ってなかったじゃん」
「バーカ、心の中で言ったんだよ」
「意味ないからそれ」
気を喪っているザキを見つめ、そっと掛け布団を被せた。それから昼下がりの強い太陽の陽射しがザキに直射しているのが気になりカーテンを閉めてあげた。銀時をふと見ると私と目が合った時に一度だけ頷いて見せたから私はそれを合図に保健室を出る。廊下に出るとまたモワッとした午後の暑さがきた
「ザキってさ、」
「あ?」
「ザキって、いじり甲斐がある人間だよね」
「あれ、お前さっき『ザキは空気』って言ってなかったっけ?」
「あ〜あれは冗談。面白い友人の1人だと思ってるよ」
「冗談だったのか」
「仮にザキがただの空気だとしたらわざわざ暑い中こんなとこにお見舞い来ないじゃん」
「まあ…そうだな」
ザキがただの空気のような存在だとしたら、私には必要のないわけだしお見舞いなんて行かないし布団も掛けてあげないし日光からも防いであげないと思う。本当に「空気のような存在」だと思っていたらの仮説だけど。でもザキだって私の友達の1人であり、これから夏の思い出を作るのに必要な人物でもある。確かに扱いは悲惨なものだったかもしれないがこれが私の友達に対する愛情表現であることを小学生から一緒だったザキには感づいてほしいところだ。
「でも鈍感だしね」
「は?」
「ザキって。」
「なにそれ、恋系の話題?」
「全然違う」
「鈍感と言えば恋愛系じゃないのかよ?」
「友達としてって話」
「?」
「ま、でも銀時には難しい話題かもね。銀時バカだから」
「バカにすんじゃねーぞコノヤロー」
7月の昼間はまだまだ長い。夜はまだまだ遠く。
[*前] | [次#]
[back]