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学校に来ている。今年3度目の補習、もういい加減私を補習という呪縛から解放して欲しい三百円あげるから。だがそんな鬱になるようなイベントも私は苦に思わない、何故なら土方くんがいるから!

補習が終わり、生徒たちがそれぞれ教室から出ていく。高杉も銀時と帰っていった。私が二人を追いかけようと足に力を入れたその時、廊下の向こう側から風紀委員副委員長の土方くんがこちらに歩いてくるのが見え、今まで追いかけるとかなんとか言っていたことを忘れ、土方くんに視点を変える。扇子をパタパタさせて歩んでくる彼は残念ながら私のことを見えていなかったようで、満面の笑みで現れた私に身体をビクッと震わせて驚いた

「急に出てくんじゃねェ、びっくりしただろーが」
「夏祭りに行こう!」
「はァ!?」

口をあんぐりと開け、そう言った土方くんであったがすぐに冷静さを取り戻し、いつものポーカーフェイスできっぱりと言う

「忙しい、無理だ」

その途端「はァ!?」と言ったのは今度は私のほうだった。忙しいってなんだ忙しいって、普通どんなに忙しくても夏祭りくらい行くだろ普通!真面目かっ!ガリ勉かっ!

「えー行こうよ、学生最後の夏祭りになるんだよ?」
「暑いからそんなにベタベタするな!」
「これは行くしかないでしょ」
「分かったから。行くから、今すぐ離れやがれ」
「やったー」

両手をブイサインにしてぴょんぴょん跳ねながら喜んだ私に対して、扇子をぱたぱたさせたまま冷めた表情で「どんだけ喜ぶんだよ」と土方くんは言う。しかし自分の好きな人と夏祭りに行けるなんてこんなに幸福なことはない。今から楽しみすぎて眠れないなこれは、うん不眠症決定。

「ったく、毎年この季節になると総悟が居ねーから、俺が必然的に忙しくなるんだぜ?お前、俺のストーカーならそこんとこ分かれよ」
「そういえば沖田居ないじゃん、今年は早くない?」
「あぁ。」

そう言った土方くんは窓の外を眺め、寂しそうな表情で「今年は三回忌だからな」と呟く。私もそれに静かに頷いた。

総悟のお姉さんのミツバちゃんが亡くなったのは3年前。元々、肺が悪かったらしく死因はその関連の病気だったらしい。総悟の同級生である私達もミツバちゃんには生前、数えきれないほど沢山お世話になった。美人で優しくて頭が良くて、激辛系を好むようなユニークな一面もあったけどきっと嫌いな人などいないはずだ。だからこそ「惜しい人を亡くした」と町中のみんなは言った、お葬式の日も…今でも。でも一番悲しく思ってるのは遺族である沖田で…。だから毎年この期間は沖田が委員会をサボっても土方くんは何も言わない。土方くんなりに考えてくれてるんだろう、なんて良い人なの土方くんてば。

「三回忌か…。もう3年も経つんだね。」
「早いもんだな」

うん、と私が呟いてそれっきり沈黙が続いてしまった。もう私たちしか居ない長い廊下には、遠くの音楽室で誰かが練習している「別れの曲」のピアノが小さく聞こえてきた。こんな時に限って吹奏楽部も場面に合った曲を演奏するもんだ、君たちはエスパーか。

「帰ろうかな」

そう呟くと「そうか」とだけ返事をした土方くんはまだ用事があるようで学校に残った。下駄箱に向かう途中、職員室の前を通った時にこの学校の卒業生が代々、卒業式の後に撮った集合写真が一つ一つ額縁に入れて飾られてある。

ミツバちゃんが写っている代を探すと、ある集合写真の中で友達に囲まれながら楽しそうに笑っていた。幸せそうな笑みだった。思えばミツバちゃんの嫌な顔なんて見たこと無かったかもしれない。ミツバちゃんといつでも一緒にいた総悟は…見たことあるんだろうか。

「あ、不良女じゃねーかィ」

学校からの帰り道。小さな花屋さんの前を通りすぎようとしていた私に、丁度白い花束を買って店を出てきた総悟に出くわした。

「その呼び方やめてよね、評判悪くなるじゃん」
「ははっ、アイドルでもねェ。評判なんか気にしてどうすんでェ」
「とにかくやめろ」
「へいへい」

会話をする限り、憎まれ口を叩くのはいつもの調子らしいけれど、表情にはしっかりと今から墓参りだ。と言うことが出ていた。8月に入ったばかりなのに今年は去年と比べて早いなー、でも三回忌だからなのかな。私あまりお葬式事には疎いんだけどさ。

「それミツバちゃんに?」
「ああ。」
「あれから三年…だっけ」
「三回忌だから今年はいろいろしなきゃならねーみたいで」
「だから早めに委員会の休みとってたんだ」
「まあねィ。過労で土方には死んでもらいまさァ」
「そうはさせません!」
「でたァ。どんだけあのマヨラーが好きなんでィ」
「星の数ほどってやつ〜?」
「…キモ。」

真顔で心の底からキモいと言われたのは人生初めてかもしれない。なんか傷付くわー。と、心が折れそうになっていると花束を肩に担いだ総悟は「嘘でさァ」と言って帰路を歩もうと振り返った。

「あ、あのさ!」

呼び止めて聞くまでもないような気がしたけど呼び止めてしまった。

「お線香とか挙げに行ってもいい?私、あまり三回忌とか分からなくって…」

仮にも高校生が、もうあと半年で新社会人になるという高校3年生が、こんなこと聞いたら笑われるかもしれない。でも大切な人の三回忌だから、散々お世話になったミツバちゃんの大事な行事だから。って親に聞けば良かったのだけれど。そう思い、やっぱ何でもないと取り消そうとした時、振り向いた総悟がへらりと笑って「来てやって下せェ」と言った



「きっと姉上が、喜ぶ」







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