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8月になった。

と言うより気が付けば、ふと見たカレンダーが8月に変わっていた、と言う表記のほうが正しいような気がしなくもなくて、いやどうでもいいかそんなこと。先月よりも更に気温が上がるこのド田舎では近々祭りが開催されるらしく、道に並ぶ電柱と電柱の間を色とりどりの提灯(ちょうちん)が繋いでいる。

噂によれば今年もお化け屋敷を盛り上げようと落合さんも張り切っているみたいだし、徐々にその夏祭りさが現れてきていた。

「あれからどうなの?兄妹の仲は。」
「あー、なんか喧嘩しまくりらしいぜ」
「はァ?せっかく仲直りしたのに?」
「つまんねーことでいつでも喧嘩してんだとよ、おっちゃんが言ってた」
「まぁ、喧嘩するほど仲がいいってやつ?」
「知らねェな」

「だって俺兄弟いねーし」と鼻をほじりながら言うのは坂田銀時、私の幼馴染みでもある腐れ縁の悪友。駄菓子屋でいつものことながらダラダラのんびりしていると、噂をすれば、例の当事者たちがガタガタと店の奥から出てくる。

「うるっさいネ!私がどこ行こうと勝手アル!」
「またそんな事言ってさ。遊びすぎて去年みたいに夏休み終わる前日に宿題やってないとか騒ぐんじゃないよ?」
「なんで神威がそれを知ってるアルカ!?去年はこっち来てなかったはずヨ!」
「さあね、俺の情報網なめるなって話かな、って違うや。宿題は先にやっとけって話。」

ガミガミガミガミ喧しいなと思っていたら、神威と神楽が喧嘩をしながら店を出ていく。せっかく仲直りさせたのに…。深くため息を吐いたのは私だけではないらしく、銀時もため息を吐いたあとに続ける。

「っていうか神威だっけ?あの兄ちゃん、不良だろーが。宿題とか真面目な事言っちゃって大丈夫なのかァ?」
「あー、っていうかなんで不良とか知ってんのさ」
「なんでって、」

銀時が仮に神楽に兄貴がいた事を既に知っていたにしても、神威の都内での学生生活までは知らないだろうと思う。まあ、調べようとすれば簡単に調べられる課題ではあるけれど。銀時に限ってそんな自分が得をしないような事を頼まれない限り、いや他人から頼まれたとしても快く調べようとしないだろうな、きっと。

「高杉が言ってたから?」

「疑問系で言わないでくれる?」そう私がいうと、銀時が店先のガチャガチャをしながら独り言のように呟いた。

「神威ってやつ、趣味っつーか悪趣味があるみたいだぜ。」

急に何を語り出すんだ、意味がわからないよと言わんばかりの表情で「はぁ?」と言いながら銀時に近づくとガチャガチャから出てきた景品を見て、「ハズレかよ」と舌打ちをした。

「でも一応聞いとこっかな、その悪趣味とやらを。」

私がそう促すと銀時は景品であるハズレの不細工な人形を見たまま暫く黙っていたが、すぐに沈黙を破るように、その人形の頭を中指で吹っ飛ばしながら言った

「あいつの趣味はズバリ、“アタマ潰し”だ」
「頭潰し?」
「ヤンキーとかって他の学校の一番強いアタマぶっ潰して、侵略していくの好きだろ?」

吹き飛ばされて頭が無いその人形の胴体だけを「これお前にやるよ」と投げ渡されたが、気味が悪かったので咄嗟に投げ返す。

「人形いじめたらダメじゃんか銀時!呪われても知らないよ!」

人形にまつわる呪いとか怖い話で聞いた事があるし、そんなの私ムリだし。私が切羽詰まった表情で銀時を睨み付けると、銀時はそれを察したのか、近くに転がった人形の頭部を拾い上げ、取り付けて、元に戻った人形を私に再度渡してきた。…なかなかブサカワな人形だ。

「おめーらもうどっか行くのか?」

店の奥からおっちゃんが出てきて私達に話しかけた。

「あー、お金ならそこのテーブルに置いといたから」
「毎度あり。夏祭り近いからこれ持ってけ」
「なにそれ?チケット?」
「綿菓子とか無料になるんだとよ」

おっちゃんから受け取ったのは、水色の紙切れ6枚。その紙切れは夏祭り限定使用の無料引換券だった。オカネに乏しい私達学生には有難い代物である。

「ありがと、おっちゃん!」
「おっちゃん、ありがとな」

銀時と3枚ずつ分けたあと、駄菓子屋を出る。無意識に携帯を開き、時間を確認すればもう6時。グータラしてるうちにまた今日も何もしないで1日が過ぎてしまった。空はまだまだ明るいのに、時間は速くなることなく遅くなることなく一定に流れているのである。ひぐらしの鳴き声が耳に響いたとき、電柱に貼ってある夏祭りの貼り紙を見てぼそっと呟いた

「高杉も来んのかなぁ」

犬猿の仲の名前を今出すなんて自分でも驚いた。現に今、私の隣を歩く銀時も目を見開いてこっちを見ている。ちょっと待ってよ、そんな顔されると言った私が一番恥ずかしいじゃん、呟いてみただけだもん、呟いてみただけだからなホントに。

「別にあんな不良、興味ないけど」

そう続けて言ったらハハッと笑われてしまった。私が黙って歩を早めると銀時は小走りでついてきて、これまた興味なさそうに、でもどこか期待してるように言うのだった

「来るんじゃねーの?あいつ祭り好きだし。」






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