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元々神威や神楽は家系上、日光に弱い。だから本来なら涼しい室内に居なければならないのに何故か神威を外で見掛けるのが最近は多かった。番傘を射しているから大丈夫なのかなと思ってたけどやはり日光だけじゃなくて熱にも弱いんだ。

干からびて衰弱した状態の神威をなんとか駄菓子屋に送り届けると、駄菓子屋の奥の居間からおじちゃんと神楽がバタバタと出てくる。それに少し遅れて花魁おばさんが氷枕を持って出てきた。扇風機の冷風を浴びせ、うちわで扇いでいると干からびてヒビ割れていた神威の素肌がいつもの透き通る程白い肌に戻ってきて、私達は全員安堵する。

「……、」

ゆっくりと目を覚ました神威はぼーっとした眼差しで私たちの顔を順番に見たあと、上半身を起こそうとしたが神楽が神威に抱き付くように、というよりぶっ飛ばすように襲いかかったので一度は起き上がった神威はまた畳の上に倒れる。

「このバカ兄貴!みんなを心配させやがって情けないアル!」

神威に馬乗りになり往復ビンタをかます神楽を私と銀時が止めに入った。花魁おばさんは神威の回復に泣いて喜んでいる。おじちゃんはそんな花魁おばさんの肩を抱いて背中を擦って「良かった良かった」と言った。

「全然良くないネ!こんなにたくさんの人を巻き込んで…。もう子供じゃないんだから自分の体くらい自分でコントロールするヨロシ!」
「だって…、」

そういいかけた神威が、ビンタしている神楽の手を掴み制止した。神楽が黙り込んだ時、一瞬静かになった室内からは知らぬ間におじちゃんと花魁おばさんは居なくなっていた。なんとなく、ここからは子ども特有の真面目な話だと察してくれたんだろう。「だって」と呟いた神威は困ったように笑って言った

「神楽は俺が居ると嫌だろう?」

神楽が固まり、沈黙が始まった時に私は記憶を呼び戻していた。あの数日前の暑い日に駄菓子屋で花魁おばさんから「神威くんが来るよ」と聞いた神楽の寂しさで曇ったあの表情が、小さく儚げだったあの背中が今でも忘れられない。そしてあの場で私だけに聞こえた「来なくて、いいのに」という神楽の呟きも。

「神威はいつもずるかったネ」

上半身を起こした神威の足に馬乗りになったまま手をだらんとした神楽は俯いたまま話し出した

「私が持ってないものを持ってて、私が出来ない事を簡単にやりこなして、私が大切なものも横取りしていくアル」
「……、」
「私は銀ちゃんや名前と友達になるまで結構、時間が掛かったアル」
「そんなんじゃないよ?神楽」

私が横から割って入りそう言うと神楽は首を横に振った。「違う、違うアル」と。

「実際、神威は私よりも名前と出会ってから友達になるまでの時間が何倍も早かったヨ。」
「そんなことないよ神楽、俺は」
「私よりも強くて、仲良くなりやすくて、そんなの神威のほうに全員が付いていくに決まってるアル」
「神楽、聞いて、俺さ」
「でもずるいのは私だったネ」
「え…、」
「私は自分の嫌な性格を神威のせいにしてたヨ、だから神威に…こんな…こんな、」

眉間に皺か寄ったまま思い詰めた表情の神楽の青い瞳から大粒の涙が零れ落ちた。それを引きがねとして両手で目を抑えながら涙腺が壊れるほど泣きわめく神楽。私が神楽の背中を擦ってあげようと近付いたがその時、私より先に神威が動いた。それを見てまた銀時の隣に座り直す。

「ごめんネ…神威…」
「神楽だけが悪いんじゃないよ、俺だって悪かったんだ。だからおあいこだヨ」

そこにはもうギクシャクした兄妹の姿なんてなく、まさに兄弟喧嘩という名の戦争が終わりを迎えたときの清々しい雰囲気だった。



「…ってなんの最終回だよ」

帰り道、二人で歩いていると銀時が言った。

「あいつらの兄妹喧嘩に付き合って俺達はこんなに大切な時間を溝に捨てたってのか」
「まあまあ、そんなにカリカリしないで」

と言っている私ではあったが時計を見ればもう夕方の6時30分だった。夏場は日が長いためにまだ暗くないから全然時間を気にしていなかっただけに本気で驚いた。こうして周りを見渡せばあちこちの電柱には夏祭りのビラが貼ってある。

「夏祭りも近いんだね」
「そういやそうだなー」

ぼんやり、空を見上げた銀時がふっと自嘲染みた笑みを見せて言う

「なんか、早ェな」

これから約半年後に私達が卒業した時も銀時はいつも通り制服をだらしなく着て、卒業証書が入った筒を乱暴に持って、そう言うのかな。今更だけど卒業したくないと思ってきた。銀時とこうして駄菓子屋に行きたいし、高杉とつまらないことで喧嘩もしていたい、沖田と授業サボって屋上で昼寝したいし、土方くんに会えなくなるのは本当に嫌だ。それに卒業してしまったら桂からの意味不明な電話も掛かってこなくなってしまう、坂本の燦然と輝くあのうざったい笑顔も拝めなくなるし、ザキともずっと友達でいたいのに。

「うん、早いね」

そう言って精一杯微笑もうと努力した私はちゃんと笑えていただろうか。それは鏡を持ってない私には分かる由もなく、銀時も空を見ているために私を見ず。私の笑みは夕方の暑さに溶けるようにして無くなった。






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