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廊下を走り、階段を落ちるように駆け降りて来た。校舎を睨み付けて、あの教室と落下地点との距離を計った末、この辺に落ちてるんじゃないかなみたいなポイントを絞り込んだ。

「バカ杉あのやろー、後で殺す、死なない程度に殺す」

文句を言いながら草を掻き分けて探していると背後に人影を感じた。それが私の直感だと高杉が態々ここまで嘲笑いに来たのではないかと思い、勢いよく振り向きざまに土を投げる。が、私の勘違いだったようだ。

「…もしかしてこれを探してるっスか?」

土が顔からサラサラ落ちている。そんな汚い顔をした来島また子が引きつった笑みを見せながら私にiP●dを見せた。これこれ!と飛び付くように来島からiP●dを受け取り、壊れていないか確認してみたら幸い無事なようだった。本当に無事で良かった!高杉は許せないけど、本当に良かった!

「私も今回2年の補習組で。面倒だけど行かなきゃ留年だし、って登校しようとここを歩いていたら偶然上からそれが降ってきたんスよ」
「ナイスキャッチだよ!ファインプレーだよ来島!」
「そ、そうっスか?なんか先輩に褒められると照れ臭いっス」

後頭部を掻きながらぎこちなくはにかんだ来島。本気で感謝をしている私はこの素晴らしい後輩に何かお礼を出来ないかと、恐らく豆腐しか詰まっていない脳内をフル回転させ考え出し来島に言う。

「お礼にあとで、んまい棒おごってあげるね、新メニューのチョコキム…」
「いやせっかくですが遠慮するっス」

速攻で、というか食いぎみで断られた。フライングはダメだよ来島。

「えーなんでー」
「先輩に向かって失礼は承知ですが味覚おかしいっスよ」
「えー美味しいのに。ところで来島、どうして顔が土まみれなのさ」
「アンタのせいっスよ!」

そう言ってバタバタと水道の方へ走り去ってしまった。あーあ、来島を怒らせてしまったようだね。ボケたんだけど素直に謝った方が良かったかな。って言うより

「バカ杉ィイイ!謝らんかい、あほんだらぁあああ!!」

スパーンと勢いよく開いた教室のドア。勢いが良すぎて補習クラスの皆がビクリとこちらに注目してきた。銀時だけはまだ机に突っ伏せたままだが。

「チッ、お前のそれ無事だったのかよ」

一番最後にゆっくりとこちらを向いた高杉が席を立ち、ゆっくりと歩み寄ってきて、面白くなさそうに舌打ちをした。

「私のiP●dを良くも危ないめに遇わせてくれたな!コノヤロー!」
「てめェが謝らなかったのが悪い」
「なんで私が謝らなきゃないんだよ!お前が謝れアホー!」
「俺が何故てめェなんぞに謝らなきゃならねェ」
「だって今回だけじゃないじゃん!前だってうちに来たときに窓からOWeeぶん投げて壊したし!」
「これだから女は…。昔の事ばっかり掘りあげてくる面倒な奴だぜ」
「謝れやチビ杉エロ助!」
「あんま俺になめたクチ利いてんじゃねーぞ」

高杉が私の胸ぐらを掴み、私が高杉の脇腹を殴ったその時、既に教室にいた補習担当の先生が私達を止めに割って入ってきた。って言うか「先生居たの?」って感じ。結局私達だけ何故か課題の量が多かったことに納得がいかないけど、補習授業は始まるわけであって。始まる前はいつまでも始まらないでほしいと思うけど、始まったら始まったで早く終わってほしいと願う私であった。

「はい、今日の授業はここまで」

丁度お昼の鐘が田舎全体にこだました時に本日の補習は終わりを告げた。9時から12時まで3時間ぶっ通しで机に向かうのは流石に天才名前ちゃんでも滅入るものがある。せめて5分くらいトイレ休憩を入れてくれてもいいじゃないの。

ま、そんなわけで各々が勉強道具を鞄にしまい教室を出ていく中、私は銀時を連れて駄菓子屋に行こうとしていた。バカ杉はもう知らない、知ったこっちゃないよあんな破壊魔なんて。

「銀時ぃー、久々に行こうよ駄菓子屋ぁ」
「はぁ?今俺はブロークンハートなんだよ、失恋に苦しんでんだよ」
「お好み焼き食べれば元気出るって」
「一人で行きゃァいいだろ」
「うるっさいなー、一緒に行くっていったら行くの!」
「うおわっ!」

襟首を掴みズリズリと引きずって田舎道を歩く。暑い暑いという単語はもう口が腐る程言ったし、耳が腐る程聴いたから自然と言う数が少なくなった。けど、相変わらず暑いのは変わらないわけで、道から湯気がたっているようにも見える。

「俺はもういいって、帰るって、帰ってエロ本読みまくるって」
「ジャンプじゃないんだ。結乃アナが悲しむよ?」
「知らねーよそんなもん。」
「まだあのドラマのラブシーン気にしてるの?銀時も意外と女々しいよね、いつまでもネチネチ」
「うっせー、大体な…」

銀時がグダグダ語り始めたその時、急に銀時が何かを見つけ出し走り出す。なになにー早速エロ本でも見つけたのかーと私も後を追って走る。すると道の真ん中で人が倒れている。それはよく見知った容姿だった。ピンク色の三つ編みに編んだ髪、透き通るくらい色白の肌、手から少し離れた場所に転がる番傘。

「こいつァ、駄菓子屋の兄ちゃんじゃねーか!」
「神威!?」

私が上半身を抱き上げても衰弱した神威は力なく手をだらんとさせた。それは気を喪っているというレベルじゃなかった。

「とっとりあえず、駄菓子屋に急ぐぞ!」

神威を背中におぶった銀時は私に番傘を渡し走る。私も平行して走りながら神威に番傘をかざして、せめて今のうちでも日光を防ごうとした。神威の皮膚が少しヒビ割れている。

バタバタと二人分の走る足音が田舎道に砂ぼこりを生んだ正午すぎ頃。





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