名前変換




「好きです!」


先程総悟が意味深な発言を残して微妙な空気にしたまま帰りやがったあと、山崎がゆっくりと話し出した。「えーっと」とポリポリ頬を掻きながら、そして一度深呼吸をしたあとに目を固く瞑ってそう言った。ややデカめの声に吃驚して突発的にザキを叩く。

「あのさー、下に親がいるんだからそう言うのやめてよね」
「ご、ごめん」

叩かれた頭を押さえながら申し訳なさそうにザキが謝った。もう意味わかんないんだけど!なんで雨の中うちに押し掛けて、大声で告白すんのさ!

「名前ちゃんは副委員長が好きなんだよね?それでいつも副委員長のこと見てるでしょ?でもそんな名前ちゃんをいつも見てて…ってうわぁ俺気持ちわるっ」

小刻みに震える両手で顔を覆ったザキ。気持ち悪いとか思ってないけど、こんな私を好きになる意味が理解できずにいるので微妙な表情で私はザキを見つめている。再び顔から手を離したザキが私に問うのであった

「あのもし良かったら俺と付き合ってください」
「無理」
「即答!?」
「だって私は土方くんが好きなんだもん」
「やっぱりそっか」
「うん、好きでもない人と付き合えないしね」

レジ袋の中から風船ガムを見付け出し1つ口に含む。空気を入れるとプウッと膨らんだ風船はぱちんという音もなく弾けて消えた。口の周りにべっとりついた風船ガムを手で取っているとザキが安心したように笑う

「でもなんか断られて良かったよ。他の人を好きなまま好きでもない男と付き合うなんてそれは俺が好きな名前ちゃんじゃないからね」
「でしょ」
「うん」
「もっと好きになった?」
「うん」

ザキが迷わず頷いた時にまた無意識に私は彼の頭を派手に叩いていた。少しは躊躇しろよ、と。しかし「なんで殴られたの俺」と両手で頭を押さえながら涙目で苦い顔をするザキを見て、私自身でも理不尽な行動だったな…とうっすら反省した。

「ほら、あんぱんあげるから泣き止みなよ」

と、宙を舞ったあんぱんはすとんとザキの手の内に乗って、引きつった笑顔で「ありがとう」なんて言う。あんぱんが特に好きでも嫌いでもないと言うことは私は知っている。でもあの沖田と同種のサディストというものを生まれながら背負って育ってきた私としては、友人に対する愛ゆえにという事であって、

「私に向かってスパーキングしたら許さないからね」

これも友人に対する悪戯心というものなのだろうか、ザキが帰り際、私にあんぱんを投げようと構えたので物凄い殺気を身体の底から湧き出させて黒いオーラを放ち、そう言った。「じ、冗談だよ」なんて、明らかにヤバいって顔をしながら言ったのでバレバレで、ザキの頭をもう一度だけ叩く。毎度のことながら痛い素振りをして叩かれた部分を手で覆うその行動が、もう私達の間では一連のお約束のような感じもして、より仲が深まった気がした。…と思うのは私だけかもしれないけど、他人の心なんて見破れないからいちいち気にしない。

さぁ帰りな帰りな!と半ば強引に家から追い出した。いつの間にか雨が止んでいる。

「あんぱん捨てずにちゃんと食べるんだよ、吐いても食べるんだよ」

手を振りながら見送るとザキがこくりと頷いて手を振り、そのままくるりと前を向いてそれっきり振り返らなかった。家に戻ると玄関先に先程帰ったザキが忘れていった傘が置いてある。一度、すぐに追いかけて届けようかとも思ったがなんとなく今はやめておいた。あまり話を振るのが得意じゃない私としては友達として話す口実として、その日までこの傘は私が預かっておくということで。

地面に再び光が差し、蝉が徐々に鳴き始め、夏らしさを取り戻してきた雨上がり。






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