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蝉は鳴くのを止めようとせず相変わらず煩いが蝉だって生き物だからいつか息の根が止まってしまう時が来る。聞けば蝉の生涯は土にいるときが長くてこうして木に止まりミンミン鳴いてるときはほんの僅かな時間でしかないらしい。私たち人間はそんなに短くはないけれども私たちの青春は短いんだ!だから思いきり満喫しないといけないんだァァァ!


「というわけでプールへ行こう!」
「どういうわけでだよ」


土方くんが冷めた視線を突きつけてくる。土方くん家にてソファーに片足を乗せて決めポーズを作りながら叫んだ私がまるで滑ってるみたいじゃないか。売れない芸人みたいじゃないか。


「土方くん、青春ってのはね、命短し…なんだよ?」
「だからなんだ」
「だから今のうちにやりたいことやっとかねーといけねェんだ」
「なんで今、口調が変わったんだよ」
「つべこべ言わずに連れてってよ〜」
「はぁ!?1人で行きやがれ!」
「1人だなんて寂しいじゃん。…土方くんは私の水着姿見たくないの?」
「出るとこ出てねェ体型見たって不愉快なだけだろ」
「いいんだよ?私が土方十四郎の彼女ですって周りに触れ回ってもいいんだよ?ただし土方くんがたくさんの女子生徒に本当なんですか!?って毎日聞かれてノイローゼになるまで追い詰められても私のせいじゃないからね」



夏だ!プールだ!泳ぐんだ!…と言うわけで強制的に土方くんを同行者として引き連れやってまいりました市内の屋内プール!

「これ以上、面倒ごとは御免だからな。」

そう言っていかにも「嫌々連れてこられました」みたいな態度を取っているけど土方くんは脇に巨大浮き輪を抱えている。なんだ、案外ノリノリじゃん。

「泳ごう!泳ごう!」

浮き輪を腰部分に抱えたまま走り出した私にコケるなよと念を押した土方くん。周りは夏休みと言うこともあって家族連れの人が多い。小さい子とかも浮き輪を使ってプカプカ浮いている。っていうかあれ晴太じゃん!生意気なガキなんだよなー。そう思いながら晴太の近くまできた

「あ!アバズレだ!月詠姉、アバズレがいたよ!」

私を見つけた途端、晴太が月詠先生に叫ぶ。ちなみに月詠先生は保健室の先生でもある。てか誰がアバズレだ晴太コノヤロー、口を慎みなさいまったくもう。

「こら晴太。その呼び名はやめなんし、名前に失礼じゃ」
「月詠先生こんにちは、プールだなんて先生も以外とアクティブなんですね」
「いや晴太がどうしても来たいと言っていたので仕方なく連れてきてやったのじゃ。」

すると会話をしていた私と月詠先生をチラチラと見比べた晴太がゲラゲラ笑いながら私を指差した

「あははっ!月詠姉よりお胸は無いのにお腹はあるね!」
「うざ!今からなんだよ私の体は!今に見てなさい。DカップいやE、Fカップになってやるんだから」
「気を悪くしないでくれなんし、名前くらいならDは無理でもCにはなるぞ」
「無理とか言わないでくださいよ月詠先生〜」

結局先生の言葉が一番傷付いたという結果で終わった。土方くんのところへ戻るといきなり「お前がふらふら勝手にどっか行きやがるから溺れてんのかと思ったんだからな」と怒鳴られた。


「っは〜!楽しかったね土方くん!」
「あぁ、お前の溺れ具合には爆笑した」


帰り道。土方くんの自転車の後ろに乗りながら話す。月詠先生と別れたあと土方くんとウォータースライダーに乗ったりしたが着水の仕方が私には難しくて何回も溺れそうになった。それを土方くんが見てて爆笑したらしい。

「酷い人だよ爆笑だなんて。まあ溺れかけた私を助けてくれたから許すけど」
「一緒に同行した奴がプールで死ぬなんざ胸糞悪いから仕方なく助けただけだ」
「ツンデレってやつだね土方くん」
「ちげーっつの」


すっかり泳ぎ疲れて気づいた時には土方くんの背中に重心を預けながら寝ていた。着いたぞと言われ起こされれば私の家の前。そして土方くんは

「夏休み明けは初っぱなから実力テストがあるからしっかり勉強しとけよ」

と、いきなり現実に引き戻す言葉を放った

「そんな残酷な〜。まだまだ夏休みは明けませんよ土方くん」
「そんな考えだとあっという間に夏休みは終わってんだからな」
「だってまだプールしか行ってないよ。夏祭りだって行きたいし虫取も行くって決めたし、」

指を折って語る私に土方くんは呆れ溜め息を吐き「勝手にしろ」と言い、自転車のペダルに足をかけた。その手を掴み私は言葉を紡いだ

「今日はありがとう」
「なんだお前らしくねェな」
「ストーカーだってそれくらいの常識人ではあるよ」
「常識人だったらストーカーなんてしねーだろ」


バカか、と小さく頭を小突かれた。そこからじわりじわりと熱さが込み上げてきて顔が熱い。

畦道を土方くんの乗った自転車が通り、だんだん小さくなり、見えなくなった途端に寂しくなった。



蝉の鳴き声と同時にカラスの鳴き声も共鳴した夏の夕暮れ。






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