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『今年の夏は昨年の最高気温を上回る暑さとなり、熱射病対策を万全に心掛けるよう、各地方の医療団体が声掛けています』




「へー、早くも去年の記録越したんだね」

「まだ7月になったばっかだってのにな」

「私、去年も暑くて干からびて死にそうだったのに。今年はマジで死ぬかも」

「面倒だから葬式は行かねーぞ」

「ちょ、ひどくなーい?」



近くの駄菓子屋にて銀時とアイスを食べながら古い箱形テレビを眺める。銀時との会話の話題はズバリ今年の異常気象について。ニュースでは「例年の暑さとは比べ物にならない」とか「異例の事態だ」とかそんな私たちでも分かりきっている事ばかり報道していて、頬杖をつきながらダルそうにアイスを片手に見ている私と銀時の二人はどうでもいい会話を繰り広げていた。今は7月上旬、そして午前10時。通常ならば学校に行かねばならない時間帯なのだがどうしてこんなとこにいるのかと問われれば迷わずこう答えるだろう、「暑いから」とね。実際にさっきここへ来たときも店主のおじちゃんに「ガッコは行かねーのか」と聞かれてそう答えたばかりだ。暑いから勉強する気になれない、てか普段から勉強する気になれないけどね、だって私の身体にはやる気スイッチなんてそんな優れた性能ないもん。けれどそんな無気力な生徒でも留年せずに進級できる馬鹿げた高校が世には存在する。多分全国一IQが低いんじゃないかなと思う。まぁそんな学校で私は気ままに生きているわけで、別に後悔していない。そう言い切れる。だって自由だし、それなりに友達も個性的な人間ばかりだし、周りも馬鹿だから無理に背伸びしなくて済むし、疲れない。きっと大人たちは「良い将来を生きるには良い高校や大学に通うべきだ」って言うけどそんなの人それぞれだし大切なのは「今」だと思う。20代30代のおばさんになって「もっと青春楽しめば良かった」なんて後悔したくないし思い出は薄く少ないより濃くて多いほうが断然良いに決まってる。今向かいの席に座っている銀時だってきっと私と同じ考えな筈、なぜなら彼も同じ高校に通う「馬鹿」だから。



「おめーら、いつまで居座ってる気だコノヤロー。アイス1本で居座れるのは10分までって言っただろ」

「うるっさいなーおじちゃん。そんなにケチらなくたっていいじゃんか、うちら学生はオカネがないからお洒落なファミレスとかで涼めないの!」

「ガッコ行けガッコ。おめーら馬鹿なんだから少しは勉強しやがれってんだ」

「おじちゃんだってうちらの通ってる学校の卒業生じゃん」

「う、うるせっ!早くガッコ行け馬鹿野郎!」

「てかおじちゃん地デジわかる?もう箱形テレビじゃ観れなくなっちゃうから買い換えなきゃ」

「地デジィ?聞いたことねーな。あ、さてはハッタリか?また始まったよ名前の嘘っぱちがよォ」

「はぁ?嘘じゃないし。おじちゃんやっぱ卒業生じゃん馬鹿じゃん」




嘲笑しながらおじちゃんから銀時の方へと視線を移動させると先ほどから急に大人しくなったと思ったら携帯を見ている。多分メールチェックだ。



「銀時は彼女たんとラブメールですかー」

「違ェよ、いるわけねーだろ」

「じゃ誰」

「総一郎くんから」

「なんだって?」

「ザキが熱射病だとよ」

「マジでか」



銀時の携帯画面を見ると総悟から送信されてきたある画像が写っていた。それは白目を向いて倒れているザキの姿。



「で、ザキはどこにいるの?」

「学校。どうする?行くか?」

「面白そうだし、行く」

「じゃ決まりな!」



その瞬間に席を立ち、駄菓子屋を飛び出した私達は自転車のカゴにカバンを放り投げ、サドルにまたがった。すると店の中からおじちゃんが「今までのツケの分の8480円いつ払うんだ!」と怒鳴り声をあげて出てくる。私達はおじちゃんに追われながらペダルを漕ぎ始めた



「てことでおじちゃん。またツケといてー」

「私のもー」

「ふざけんな糞餓鬼!」





おじちゃんの爆音とも言えるような怒声を背に、学校へと向かい田舎道を一気に前進した









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