(名前変更)



「もーいーくつねーるーとーなーつーやーすーみー」


そう呟いたのは沖田総悟だった。似合わない…実に似合わない。不適合にも程がある。例えば楽しみにしている子どものように明るい表情でそれを歌うならまだしも、暗い顔に近い無表情でボソッと呟くように歌われたら聴き手のこちらからすればそりゃ2度見してしまうものである。昨日学校へ久々に登校して、そうしたらなんとなく今日も来てしまっていた私。ここは学校だし、私は生徒だし、来て悪いってわけではないのだが。休み時間、遠くの席の土方くんにいつものことながら愛の視線をレーザービームの如く注いでいたら、先程の冒頭で紹介した替え歌が私の後ろの席である総悟の口から何の前触れもなく流れたので「どうしたの」と聞いてみた。すると頭の後ろに手を組んだまま、どこか遠くを見詰めて語り出す総悟。


「俺ら、もう高3だろィ」

「そうだね」

「てことは来年の春は卒業だろィ」

「そういう事になるね」

「ま、名前は留年の危機だけどねィ」

「うっさいなー、なんとかするよなんとか」

「そんなのはどうでもいいんですが、」

「なら余計な事言うな」

「高3ってことはもう学生生活において全てが最後だよな」


机に頬杖をついたまま小さく頷いた私に「夏休みもこれが最後…」と総悟がポツリと言った。それに対して私は嘲笑する。だってそんな事は今日この瞬間沖田総悟がそう気付くずっとずっと前に私は気付いていたんだから。勝った。なんかわかんないけど総悟に初めて勝てた気がして覇気に満ちた表情と態度がやはり表に出てしまう。


「悪いが私なんてそんなの3年生に進級した4月から気付いてたし!」

「名前みてェな能ナシと違って俺は委員会とか忙しかったから気付くのが今になっただけでさァ」

「ああ言えばこう言うねホントに!」

「しかし多忙だったからと言って流石に焦っちまうなァ…ったく俺としたことが。」

「どうしてそんなに落胆するのさ」

「最後くらい、小学から高校までの12年間の学生生活でやり残した事を果たして悔いが無い夏休みにしてーじゃねぇか」


「確かに」と頷きながら考える。やはり気付く時間は違えど、考える事は皆同じなんだ…と。私だって総悟と同じような事を結構前に思ったことがあったから。それにしても「最後」という言葉がこんなにも私のテンションを下げるものだったなんて考えもしなかった。今の今までは明後日に迫る夏休みが待ち遠しくて堪らなかったのが、他人から「最後の夏休み」と言われると改めて考え込んでしまい、事の重大さに気付く。そりゃそんな事を思っているから総悟は楽しそうな替え歌を歌っているのにも関わらずそんなにも暗い顔をするわけである、そのことに今納得した私はやはりまだまだ彼に勝ったと言える立場ではなくて。沖田総悟という人物は私が思っている程度の2枚、いや3枚上手を行く人間なのだ。


「で、4月から暇を持て余して夏休みの事ばっかり考えてた名前はプランでも練ってたのかィ?」

「ま、まぁ練ってなかったわけじゃないけども」

「参考になるかわかんねーけど暇潰しまでに聞かせてもらおうかねェ」

「いやそこは参考までにって言うとこでしょ」



そう言った後に私は考えていたプランを次々と述べた。海に行ったり花火したりバーベキューしたり、これは前に誘われてたんだけど九ちゃんの別荘で妙ちゃんや神楽と一緒にお泊まりしたり、あとそれからそれから…


「…虫取り、とか?」

「アンタは少年か」

「夏祭りにも行くのだ!」

「それだけかィ?」

「まぁそれくらいかな、みたいな」

「全然ダメでさァ、そんなんじゃ長い夏休みのほとんどをボケーっと過ごす事になりやすよ」

「どうしてさ!」

「もっと綿密にプランを練らねーと。例えば4W1Hって言葉知ってますかィ?知らねーだろうな」

「し、失礼な!知ってるし!」

「じゃ答えてみろィ」

「いつ、どこで、誰が、えーっと…西?」

「馬鹿か。なんでWestが出てくるんでィ。」

「4つ目のWがわかりません」

「どうしてWhatが出てこねーのかねィ、名前の頭脳はマジで不思議だ」

「てかWhatってなに?」

「…アンタ、アメリカ人じゃなくて良かったなァ」


ワットも分からないんじゃ…と呆れ半分の顔をされて英語が苦手で悪かったね!と拗ねた私。総悟が「とにかくそういう4W1Hを軸にちゃんとスケジュールを決めないと」と人差し指を立てて言う。いつにも増して、真剣な表情なのでどれくらい今年の夏に本気を懸けているのかが伝わってきた。そういえば気付かなかったけど、周りのクラスメートの女子はメモ帳とか持って「何するー?」ってキャイキャイしているのも数名見掛けられる。そうか、私の考えは甘かったかと今更気付き焦ってくる。


「それを踏まえて、今夏のプランをどうぞ」


総悟がまたそう言いながら私に答えるようにふってきた。えーまだ考えてないよー、と困っていた私の視界には、席を立ちどこかへ向かおうと教室を出ていく土方くん。私は咄嗟に走りだし、土方くんの腕をガシッと掴み「何すんだ名前!俺は今から便所にっ」と抵抗している彼を無理矢理引っ張り連れてきた。目の前に私と土方くんの二人が並んだ状況の総悟は最早興味がないという感じではあったが「で?」と聞いてきた。


「私の今夏のプランをご紹介します!」

「…どうぞ」

「毎日土方くんとランデブー!」



「却下だ」と食い気味で土方くんが言う。それを見て総悟が「フラれてやんの」とケラケラ笑った。私は総悟をビンタする。そして土方くんに「どうして!?」と問う。


「お前は夏休みの何日間か補習がある筈だぜ?なんせ不登校だったからな。ちなみにそれすらもサボったら留年確実だそうだ」

「うそー!」

「嘘じゃねぇよ」


突然の補習宣告にとてつもない悲壮感に襲われた。補習だなんて…頭がクラクラする。あ、これが貧血とやらかな、もしくは夏バテとやらかしら。夏の暑さも学校も私には全く容赦ないようで、夏休みが来ないでほしいと少しばかり願ってしまう…、そんな高3の私だった。






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