(名前変更)





あー暇だ。凄く暇だ。暇すぎて暇すぎて、日めくりカレンダーがもう無くなりそうだ。めくりすぎて無くなりそうだ。


「名前、やめなさい」

「ふぁーい」

「もうやだわ、今は12月8日じゃないってのに」


親に叱られ、めくっていたカレンダーの1枚1枚をのりで貼りつけて元に戻す作業に取りかかった。あ、テレビでワイドショーやっている。お?もんたがなんか言ってるぞ、みのさん家のもんたがなんか言ってる、この人なんでこんなに肌焼けてんの、黒光りし過ぎでしょ。そう思いながらも無言で、カレンダーに糊をしいて貼り付けるこの一連の作業を黙々と続けていた時、隣で座っていた母さんが麦茶を飲み視線はテレビのままで「宿題終わらせときなさいよ」とお決まりのセリフを言ったのだった。しかも「どうせまだ終わってないんでしょ」という最後の余計な一言を添えて。



「で、なんで俺ん家?」



あの後、カレンダー戻しなどやってられっかァァァ!と騒いでバタバタと家を出てきた私は世界で一番地味な男の家にお邪魔していた。


「ザキん家なう。」

「つぶやかなくていいから!」

「虚無空間なう。」

「すいませんね!何もなくて!」

「熱いなう。」

「今クーラーつけるから!」

「空腹なう。」

「これでも食べなよ!」

「あんぱんとか…チョイスが地味なう。」

「いい加減にしろォォォ」


山崎の叫びが耳にキーンと来る。危うくあんぱんを顔面にスパーキングされるところだった。てかそんなに騒がなくてもいいじゃんかと両耳を塞ぎながら迷惑そうな顔をすると「行っとくけど迷惑なのこっちだから!」と言った。うるっさいなーもう、つぶやいて何が悪いのさまったく。


「なんでも『なう』を付ければいいってもんじゃないからね」

「うっわーザキに説教された、ザキごときに」

「…帰ってくんない?」

「断固拒否する!」


きっぱりと断った私に眉を歪ませて「なんで」と聞いた山崎に私は「よくぞ聞いてくれた」と言わんばかりに立ち上がり、その場を右往左往しながらゆっくりと説明するのだった


「私はね、決して勉強が嫌いなわけじゃないんだ。並びに勉強が出来ないわけでもない。」

「はぁ…」

「だがしかし!何故か親に私は出来ない子だと思われている!それが嫌なんだ!この私の気持ちが分かるかい?山崎退18歳高3チェリーボーイ!」

「その語尾やめろォォォ!ま、まぁ気持ちは分からないわけでもないけど…。」

「なんだその曖昧な応答は!だから地味だと言われるんだ!だからいつまで経っても地味と童貞を卒業出来ないんだよ!」

「さっきから俺に文句を言ってるけど、八つ当たりしたくてわざわざ俺ん家に来たわけじゃないんでしょ、本題に戻りなよ」

「あ、そうだった。では本題に入りろう。」

「…疲れる」

「だからね要するに、宿題をあらかじめ終わらせといて『アンタ宿題やっときなさいよ』と、いざ親に言われた時に物凄いどや顔で『ふっ、そんなもの既に終了済みだ』と言ってやりたいんだよ私は!」

「…あ、そう」

「親をギャフンと言わせたいの!」

「そうなんだ、じゃ宿題頑張ればいいんじゃないの?」

「頑張ればいいんじゃないの?じゃないのよ!」

「まさか、」

「そのまさかだよ、勉強にしか取り柄がないジミー・チェリ崎くん」

「殴っていい?殴っていいよねコレ。」

「殴ったら殴り返すけど。ついでに蹴りもオプションで付いてきます」

「んじゃ、やめときます」

「宿題ってザキは毎年、夏休み前に終わらせてる筈だなーと思って」

「一応夏休みはミントンの野外合宿があるから、それに備えて早めに終わらせとくんだけど」

「でしょ?だからその宿題をちょっと貸して頂けないかなーと」

「答え写すの?写したら名前ちゃんの為にならないと思うんだけど」

「真面目か!」

「いだっ、グーパンチは無しでしょ!痛いよ」

「私の為を思うなら黙って宿題を貸してよ!」

「まったく仕方ないなー」


そこまで言うなら…と渋々机の引き出しから山崎が今夏の宿題であるプリントが何枚も束になっている言わばドリルを渡してきた。国語数学理科社会英語の5教科分のプリントの束だからすごい量だ。厚さ5センチ以上はあるその束をよくも夏休み前に終わらせられたね、でかしたよザキ!


「どうもありがとう!これで親をギャフンと言わせられそうだよ!」

「言わせられるといいね」


無表情で棒読みに言う山崎。私はニコニコしながら用は済んだので帰ろうと一度はその場に立ち上がったが、ハッとある重大な事に気付きザキに近寄る。「まだなんか用?」と聞いてきたザキの首に腕を回し、力を入れれば苦しそうに足掻いた。その苦痛に悶えるザキの耳元で私が低い声で言う。


「この事…誰にも言わないよね、山崎くん?」

「うっぐ、あ!」

「だって私達トモダチだもんね」

「ぐがはっ!」

「ましてや土方くんになんて絶対言わないよね。ね、山崎くーん」



泡をふきそうになりながら確かに首を縦に振った山崎に安堵し、腕を離した。「ぐはっ」と首を抑えて呼吸を整えている山崎を私は見ていた。土方くんが抱く私のイメージは下げたくないんだ。あはは、ごめんよ山崎。


「今のこの一連の事を忘れてくれる?」

「わかったよ、まったく。毎年こんなめに合うから嫌だよ俺」

「でもなんだかんだ言って毎年誰にもチクらないよね。真面目か!もしくは私が好きなのか!」

「……っ、」


まさか山崎が顔を紅潮させるとは存外。え、ちょ、黙んないでくんない?って事は、す…好きなのかオイ。私が好きなのか!?なんだよ黙るなよ私まで気まずくなるじゃんかァァァ!


「じょ…冗談だよ!宿題ありがと借りてくね。じゃ、さらば!」

「あ、うん!さ…さらば!」


なんとも滑稽。パニクってる山崎って私に釣られて「さらば」なんて言う人間なんだ。それにしてもあの間が…あの沈黙の間が凄い気まずかったー。山崎ん家から勢いよく飛び出てきた私。なんだか今でも気まずさが抜けない。


「もうやめてよねああいうの。」



想いとは誰が誰に対して寄せているのか分からないもので、勿論こちらからあちらの心など伺うことも出来ない。にしても、あちらは私の心など既に分かっているはず。私の愛情は「ストーカー」とまで罵られるほど土方くんに一途なのだ。なのにどうして、どうせ叶わないって分かってるのに顔を赤らめて黙ったんだ?なぜ好きな人へのイメージなんかを最優先にするために腕で首を絞め交渉を持ちかけた私を好…きな、ん…だ?


「真面目だからか」



そんな結論しか出てこない私の頭だ。あんな大量のプリントを自力でやるなんて無理に決まってる。


「借りられてよかったー」



そんな暢気な声が夏の空に響いた7月中旬。








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