(名前変更)





あーやめたやめた。宿題なんてめんどくさい。暑い。宿題で頭使ったから余計暑い。

そうだ、高杉ん家へ行こう。




「なぜ来た」


高杉邸(ものっそい豪邸)の門がある。そこの前でインターホンを鳴らすと庭で、ご自慢のバイクを洗浄している上機嫌な高杉晋助がひょっこりと顔を出した。「よっ」と片手を挙げてにこやかに短い挨拶をすると急に不機嫌になって「なぜ来た」そう言ったのだ。


「なんでテメェがここにいんだ」

「そんな鬼面しなくたっていいじゃん、門を開けろー」

「無理な頼みだな、帰れ。今すぐ帰れ。」

「仕方無い…実力行使に移りまーす」

「何が仕方無いだ!やめろ門をよじ登るな!テメェの体重で門が壊れる!あー!!!」







シャーっと、青色のホースから水が出てバイクに降り注いだ。燦々と光る太陽に照らされた上、更に冷たい水を浴びさせてもらっているバイクはどんなに心地良いんだろうと羨ましく感じた。先刻、門前払いを食らいそうになって必死に死闘を強いられた私はなんとか食い付いて庭に入れてもらう事ができた。車庫には確か3台あった車がないから多分高杉の家族はみんな留守。豪邸には付き物のテラスでハンモックに乗りゆらゆら揺れながら私は、どんだけバイクをピッカピカに洗えば気が済むのだろうかとこちらに背を向けたまま洗浄中の高杉に目もくれず無感情でなんと無くの会話を振る。



「最近どうよ」

「あん?」

「調子はどうよって」

「んなのテメェに関係ねぇだろ、俺が健康だろうが不健康だろうが」

「下半身の調子はどうよ」

「うっせえな黙れ!」

「ジョークだよジョーク。アメリカンジョーク。」

「それのどこがアメリカンなんだよ」


やっとこちらを向いたと思えばホースで水をピシャリとかけられた。バランスを崩してハンモックから落ちた私を見て高杉は「ざまぁ」と言いながら高笑いをする。あぁこういうところが嫌い。そう思って舌打ちをしながらまたハンモックに横になると「そこ好きだなァお前は。いつもそこにいるじゃねェか」と言ってきたので「まあね」という。


「で、何しに来たんだ」

「復縁迫りに来た」

「嘘だろ」

「嘘だよ」

「やっぱりな」

「知ってたの?」

「バレバレだ」

「なんだ、つまんないな」

「俺を誰だと思ってんだ」

「元カレ」

「さらっと正解するテメェのほうが100倍つまんねーよ」

「元カレ」

「2回言うな殺っぞ」

「でも円満破局だったよねー、今流行りの。」

「別に流行ってねーけどな」

「円満破局は否定しないんでしょ?」



バイクをまたスポンジで磨き始めた高杉の大きな背中に向けて「実は哀しかったり?」と問う。そんなわけはないはずだけれど。高杉がこんな私に哀しいだなんて感情は例え情けでも抱かないはずだ、私が知っている高杉はそういう人間だから。だいたい、付き合ってた時だってお互い容赦しないし気を遣わないし強いて言うならばライバルみたいな存在だったから、恋人とは違うねって、別れたというよりは友達に戻ったというほうが意味的に最も適しているだろう。近くに投げっぱなしのホースから水がチョロチョロと流れ出ていた。芝生を伝い段々浸食していくその水の行方を、高杉の返事が来るまで待ちがてら目で追っていた



「ああ、円満破局に違いねェな。テメェ意外にも世には女が腐るほどいるからよォ、勿論テメェ以上の女だって沢山居るわけで。だから哀しいかなんて愚問だな」


はん、と鼻で笑い飛ばし、してやったりのどや顔で私を見ている。ペパーミントのガムを噛んだときのようなあまりにもスッキリした歯切れの良すぎる今の回答に私は呆気に取られていたがすぐに可笑しくなって笑った。あ、高杉も心なしか笑ってる。そう気付いた時、次に私はこう言っていた。「ねぇ、晋」と。すると少し空気が変わり、困ったように…でも優しい表情の高杉が「その呼び名はもうやめろや、彼女じゃねェんだから」と言った



「間違ったごめん」

「特別に今回限り許す」

「高杉は、」

「あ?」

「高杉は今私をどう思ってる?」

「どう、って…」

「好き?嫌い?」

「テメェはどうなんだ」

「きっと高杉と同じ答え」

「随分任せるな」

「任せるなんてこんな時だけだよ。」



黙り込んで少し考えたあとホースを握った高杉は私にもう一度水を振りかけた、そして「大嫌いだ」と答える。降りかかる水飛沫がとても冷たくて心地良い。でもそれだけじゃなくてハッキリとした答えが聞けたから更に心地が良いのかもしれない。


「それでいいんだよ高杉」

「なんだァ?上から目線じゃねーか」

「そうじゃない」

「でも」

「でも?」

「ダチとしては嫌いじゃねェ」

「あ、虹見えた」

「俺の話を聞けコラ」



3度目の水飛沫が私を覆うように降り注ぐ。日光に反射してキラキラ光り、まるでそれはダイヤモンドのようだった。











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