(名前変更)






暑さが止まない昼下がり、私と総悟はある人の家の前に来ていた。まぁ簡単にいえば愛しの土方くん家である。総悟が片方の手に水風船を持ち、ほくそ笑みながらインターフォンを鳴らしたその姿を見て私は確信した。その水風船は土方くんがドアを開けた瞬間にベチンッとぶつけてやる…そんな考えなんだろう、ドS馬鹿の総悟の企みなどこの天才名前ちゃんにはお見通しなのだよ残念だったね!


「そうはさせるか!」


ドアがゆっくり開く瞬間、私は意を決して自分の身体を盾にするように土方くんを死守しようとしたその途端、少しの段差に躓いた私は土方くんの腕の中にダイブしていくのである。ベチャンと水の飛び散る音が頭上からしたので見上げてみると、顔面が水浸しの土方くんがひきつった表情をしている。そして総悟は成功した事に大喜びして「よっ、水も滴るマヨラー野郎」と上機嫌。



「総悟…テメェは…」
「まぁまぁそう怒らないで下せェ、今日は愛しの名前も一緒なんですから」


そう言われ土方くんが腕の中にいる私を見たので、「ハロー、マイダーリン」と投げキッスをすると避けられ「何をしたかったんだおめーは」と私を支えていた腕を放した。そうなると当然私はドサッと地面に転げ落ちる、「ひどいなァ」と総悟が言うと「知るか」と、本日も未来の嫁である私を前に見事なツンデレっぷりを見せた



「土方くぅん」
「あつっ!近寄るんじゃねぇ!」
「そんなに照れないでよ」


ソファーに座る土方くんにべったりと張り付くように抱きつく私。そして向い側に座るのは総悟。総悟なんてもうどうでもよくて、私は土方くんに抱きつけたので幸せが絶頂に達している。私達がアポなしで訪問するまでシャワーを浴びていたのか、なんだかボディーソープの匂いがする、いい匂いだ。


「で、なんだ。まさか俺に水風船ぶつける為だけに来たんじゃねーだろうな」
「まさかそんなわけないじゃないですかァ、土方さんの遊び相手を務めるほど俺は暇じゃねーですから」
「それは俺のセリフだ!」
「そうだそうだ、表へ出ろ総悟!マイダーリンが今すぐお前をぶっとばすかんな!」
「名前、お前は黙っててくんない?…で、何の用だ」
「あぁ、その用っていうのはつまり、宿題を」
「やんねーぞ」


総悟がすべて話し終える前に食い気味で土方くんが言う。実はまだ夏休みに入ってはいないのだが、うちの学校は夏休み中は遊ぶ時間と考えている生徒が多く、宿題なんてやってこないので夏休みに入る前に宿題を渡しておいて少しでもそれをやる時間を増やすという、なんだか普通の高校ではとても信じられないシステムなのである。


「まぁ、そう言わずに。土方さんは優秀だし、きっと10秒やそこらで終わりやすから。頼みますよう、この通り」
「どの通りだこの野郎」


「この通り、頼みますよ」と頼んでいる総悟はその言葉とは裏腹に全然依頼している風には見えない態度で…、土方くんはそれを見て額に血筋を浮かばせている。相当ご立腹のようだ。


「残念でさァ。じゃ、名前にコイツを見せちまってもいいですかィ?」
「ちょ、おまっ、それは!」
「これはバレンタインデーの…」
「総悟待て!やるから!宿題やるから待て!これをこいつに見せたらいろいろ厄介なことになるから待て!」



土方くんが凄く焦っている、なぜだろうか。私が首をかしげながら二人のバタバタしたやり取りを眺めていると交渉が成立したようで土方くんは盛大な溜息をついてソファーに座りなおした。対する総悟は宿題という名のプリントの束を土方くんの前のテーブルに置いた。



「じゃ、よろしくお願いしまさァ」
「うっせぇな、もう帰れよ。終わったら届けに行くから」
「それは結構なサービスですねィ、まぁ時間はまだまだありますし、気長に頑張って下せェ」



「それじゃぁ俺はこれで」と言い総悟がその場を後にした。「あの野郎、いつか必ず殺す」そう呟いた土方くんは早く終わらせてしまおうという考えのようで速効問題を解き始めた。私はさっきの総悟が土方くんに見せたコイツという名の写真が気になったので聞きたかったのだがダーリンが忙しいのなら仕方がない。抱きついたまま終わるのを待つことにした。


「…って、抱きついたままかよ」
「もちろん」
「いや俺が困るって」
「どこかの国では妻は夫に抱きつくことが最大の愛情の表わし方らしいよ」
「なんだ、そのアドリブ感満々のうんちくは。」
「妻ってことは否定しないんだね」
「全力で否定する!」
「遅いですー」
「てか離れてくんない?本気で!」



けれども流石学年トップの土方くん、問題を解くペンの速さは一向に衰えず、40枚くらいあったプリントの束をものの数十分で片付けた。前から土方くんは頭が異常に良いというのはもちろん把握済みだったけどこんなにも早いとは本当に驚いた。やはり頭を活性化させても軽く運動した後のように少々汗をかいているようで、「風呂に入ってくるから離れろ」と張り付いていた腕をはがされた。


「ついてくるな!薄々勘づいてたけどな!」


愛しの土方くんのお風呂シーンを覗ける絶好のチャンスを無駄にするまいと、さりげなく追いかけたのだが、土方くんの突っ込みとプラス鋭い目つきには流石の私もちょっと気が引ける。そう言われてもついていきたいのは山々だけれども多分殺されるだろうしね。近藤君がいつもお妙ちゃんにボコボコにされるような無様な姿は曝したくないしね。ちょっと我慢だ私!その時土方くんがタオルを持ってリビングを出て行くときに私のほうをみて行ったのだ。



「ていうか帰んないのかお前は。総悟の野郎は帰ったぞ?」
「『お前と寝る前に風呂に入ってくるからここで大人しく待っていろ』とあなたに言われたもので…」
「言ってねーよ!」
「ぐはっ!」



結局はぶっとばされ近藤君のような無様な姿になってしまった。が、私は後悔などしていないし、これくらいでめげないぞぉおお!



「だってこれはダーリンの愛のムチだからね!」
「相当イタいぞ、お前」



やや夕方になりかけている空に飛ぶカラスが私のことを嘲笑っているかのようにカーカーと鳴くのだった。












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