プリンよりお前

客間のソファーに寝そべりジャンプを顔に置いて昼寝していると無造作につけられたままのテレビ内での討論がヒートアップしてきて煩くて目が覚めた。多分神楽がテレビをつけたまま出掛けたんだろう。

「神楽のやろー、あんだけ省エネ省エネって脇が酸っぱくなるほど言ったのによォ」

世では節電やら省エネやらが流行している。それは我が家も例外ではない。舌打ちをしてテレビを消そうと思いチラッと見たら「私と仕事どっちが大事なの!?」という見出しが画面の右上に表示されていて男女が討論というか口喧嘩している番組だった。あーだこーだ騒いでいる男女を見ててこんなんで仲が悪くなるなんざ仕事に忙しくなるのもあまりいいことばかりじゃねーかのかも…と、近頃依頼がないのを少し誇らしげに思った。赤の他人の言い合いを見ていてなんだかこっちまでムシャクシャしてきた、どうしてくれんだコノヤロー。

バチンッと勢いよくテレビを消せば次は夢子の甲高い怒鳴り声が台所から聞こえてきた。「銀ちゃんんん!」と怒りに満ちた声で名前を騒がれ、頭をくしゃっとした俺は「あ〜?」と曖昧な返事をした。するとドタドタとこちらに向かって走ってくる足音と共に鬼のような顔の我がハニーが姿を表した。

「銀ちゃん!」

アレこれヤバイ感じ?なんか俺のことで怒ってる感じ?俺、殺意を向けられてる感じ?

「どうした?夢子、折角の可愛い顔が台無しだぜ」
「そうやって持ち上げても無駄だから」
「何…か、しましたか、ぐぼあっ」

ジャンプを顔から取っ払った今でもソファーに寝転んだまま怒っている夢子を宥めていた俺の上に、勢いよく覆いかぶさり彼氏である俺に窒息死させようとしているよこの子。

「私のプリン食べたでしょ」
「ぎくっ」

どういう態勢なのか俺が知っている言葉では説明しずらいけど、肘で俺の首を絞めようとしてくるせいでさっき食ったプリンが出てきそうだ。「ごめんごめん!悪かったって!」と押しつぶされながら、わざと体重をかけてくる夢子に全力で詫びると、漸く上から退けてもらい俺はその瞬間首を押さえ咳をした

「そんなにプリンが大事だったんだ。」
「いや、そんなわけじゃねーけど」
「そうだよねプリンは甘いものだもんね、銀ちゃんは甘いものが一番好きなんだもんね」
「…そんなわけじゃ」

無表情で詰め寄ってくる夢子が俺と顔の距離を5cmほどまで近づけて睨んでいる。あー怖い。こういう何も言わずにただ睨まれているのが本当に恐ろしい。いや一番怖いのはスタンドとかそういう類だけど…っていややっぱ怒った夢子が一番怖いですマジで。

冷汗が流れる。ちょっと待ってと手を肩まで上げて先ほど首を絞められそうになったのを思い出し次はどんな目に遭うのかと思うと土下座しようとか考えが過った。言い訳なんてする気は更々ない。そんなのつらつら並べても夢子が楽しみに取っておいたプリンを食べた俺の罪は重くなるだけだ。…でも食べたかったんだよねーだって普通冷蔵庫にあったら食べたくなるじゃん。

「目の前のプリンが、私を食べてくださいって言ってたんだよ。いやこれマジだから。」
「銀ちゃん、殴ってもいい?」
「はっ!?ちょ、待て待て!」

グーにした拳を構える夢子は暴れる寸前で、それを抑えながら俺は必死に反省の弁を考える。オイ頼むよ俺!口先から生まれた男だろテメー!銀さんの本気だせやコラァ!

「私とプリンのどっちが大事なの!?」

え?っと俺の思考回路が止まる。夢子の小さな赤い口から出てきたのは先ほどテレビで聞いた言葉にそっくりの文章で。「どうなの」と問い詰める目の前の夢子は泣くのを我慢して表情が歪んでいる。

「そんなの夢子に決まってらァ」

涙が流れそうな夢子の目を片手で覆いながらキスをした。手を目から離すと満足そうに笑ってからビンタをされた。しかも往復だ。いてーなドチクショー!頬を押さえて逆に泣き出しそうになった俺に夢子が立ち上がり手を差し出したので不思議に思いながらその手を握った。するとパシンと弾かれ「違うよ、プリン弁償して」と無愛想に言われ俺は舌打ちした。

「可愛くねーやつ」
「それ人の物食べた悪人が言える立場なの!?」
「へいへい、すんませんね」
「私の事好きなんでしょ、プリンくらい買ってよ」

玄関でダラダラと靴を履いていると夢子が意地悪な笑みを含んだ顔で言ってきた。その表情がなんか嫌いになれなくて、俺も自分が末期であると確信しながら「何個でも買ってやんよ」と夢子の程よく白い手を握った。



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20110521 22:58

ほたる様キリリク感謝です!
遅れてすみませんでしたァァ
それにこんなに待たせたのに
低クオリティーですみませn

こんな夢ですが気に入って
下されば何よりです(^_^;)


綾咲




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