マリオネット
「おい人形」
私は人より情と言うものが薄くて、感情を抱かない人形のような子供だった。感情移入の仕方が解らない。どんな時に笑えばいいのか、どんな時に怒ればいいのか、どんな時に泣けばいいのか。周囲の反応に合わせて私も笑ったり涙を流したりしてみた、周りから自分だけが浮かないようにと。感情を持たずに産まれてきたもので幼い頃からそう言う自分なりの訓練を積んできたからか全員が全員、誰も私を「感情がない人」などと思わなくなった。否、これでは語弊があるか。一人だけ…一人だけ私のルールで押し通すことが出来ない人間がいる。
「今日も演技のほうは上手く行きましたかィ?」
沖田総悟だ。毎日放課後になると帰る支度をしている私の所へ来て馬鹿にしたように決まってそう言うのだ。正直に言わせてもらうと当人には気の毒だが苦手…である。出来ることならあまり会話したくない、そんな存在。だっていつも彼と対面すると私の事を全て見抜かれている気がして気分が悪くなるから。だから私はなるべく沖田君に気づかれないように学校内では空気になると決めている。けれどもどうしてだろう、私の修行が足りないからかどんな時だってこんなにうじゃうじゃ沢山生徒がいる中でも彼に見つかってしまう。
「そういや今日は逃げなかったんですねィ」
「いつも逃げてなんか、ないです」
「っていうか敬語かよ同級生なのに」
沖田君が「ちぇっ」と小石を蹴る真似をして教卓の上に腰かける。今まで逃げていたとすでに見透かされていたということが気に食わなくて認めたくなかったので嘘をついた。でもその嘘さえも見抜かれてしまうような気がして黙って黒板消しを再開した。
「なるほど日直だからかァ。それじゃ仕事ほったらかして逃げ帰るわけにはいかねェもんねェ?」
「だから逃げてるわけじゃ…ありませんって」
「アンタ、毎日演技してハリウッド女優にでもなるつもりかィ?」
「そんな。これは演技じゃ…」
全部分かられてる。悔しい。こんな人形に生まれてきてしまったせいで過去に辛い思いをして孤独な思いをして、だから幼いなりにあんなに周りの子の表情を見て真似て必死に私も感情を持っている喜怒哀楽の表現が豊かな子になろうと、あれだけ努力してやっと身につけた特技なのに。なのに、こんなにもあっさりと見抜かれてしまうなんて、今まで私がなんのためにこんなにも頑張ってきたのかわからなくなるじゃない。でも彼はそんな私の事など「知ったことではない」と言わんばかりにぺらぺらと私を勝手に解析していくのだ。
「私がいるこの場はいつでも舞台になるのよーみたいな?」
「…そんなんじゃないですから」
「周りにはどうか分かんねェけど俺には残念ながらバレバレなようで」
「そんなんじゃ…」
「他人が笑えば笑う、他人が笑っているから笑う。アンタはそれで満足かィ?」
もう開き直ってやろうと淡々と「そうだよ、私はそれで満足」と言ってやろうと思った。なんの感情も示さないこの無表情で、ハッキリ言ってやれば彼はおそらくもう私のことなんて諦めて近寄ってこないだろう。そう思って、意を決して黒板のほうから沖田君のほうへ振り返った。すると
「俺は、それを見てるのが…ツラい」
「…!!!」
なんで。なんでそんな顔するの?哀しい顔しないでよ。でも別にこっちまで哀しい気持ちになるわけじゃないからいいけど。私には喜怒哀楽なんて存在しないもん。
「最初は全然気にならなかった…気にも留めなかった。ただ、わざとらしいくらい感情をオーバーに表現する奴だなってくらいしか印象がなかったんでさァ」
「……、」
「でも段々見ているうちに思うようになってきた。アンタは無理してる。まるで周りの反響に支配されて操られている人形のようだ…って」
「操り、人形」
「だから俺は会うたびに言うんでィ、人形って。夢子にいい加減もう目を覚ましてほしいんでさァ」
「…ぇ」
「どんな人ごみにいたって知らぬ間に夢子を探してしまう。見てるのがツラいなら見なければいい、そんなの無理に決まってんだろィ」
日が射して夕焼けのオレンジ色が、消し終えて綺麗になった黒板の緑色に混ざった。続いて沖田君の顔が視界に入る。まさかと思ったがそのまさかだった。
「こう言われても今は何も思えないかもしれねェけど、これから想えるようになればいい。俺は夢子が好きなんでィ。」
「…え、え?」
「何度も言わせるもんじゃないですぜ」
「あ、ごめんなさい」
「別に謝らなくても」
「でもありがとう…、嬉しい」
この感覚が多分嬉しいという感情で幸せの一つなんだろう。照れくさくて、ぎこちなく笑ってしまった。はっと我に帰り少し俯いた私を沖田君が「しっかり心ってもんがあるじゃねェですかィ」とはにかんだ。
マリオネット
に、心を。
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20110405 22:20
優月様ァァァァ
この度は…というより、
この度も企画参加感謝です^^
優月様には毎回企画参加して
頂いてホントお世話に
なっております\^^/
こんな駄文サイトですが
今後も末永くご贔屓に
よろしくどうぞです◎
綾咲
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