笑って笑って


毎年決まってこの日は厄介な事に巻き込まれるのがどうやら俺に課せられた運命だそうで、今年もその「厄介な事」は俺に容赦無く降りかかってくるのだ。否、厄介と言ってしまっては気の毒だろうか、なんせあいつらは俺を心から祝福しようと思って毎年、自室が埋まるほどのマヨネーズと煙草をどっさり置いていくのだから。こんなにもそれらを俺にくれようとするのは勿論悪い気はしないのだが、しかしいくら俺がマヨと煙草が好きだからと言っても足の踏み場が無くなるほど敷き詰められたら、申し訳ないがそれは素直に喜べない。6:4の割合で迷惑が勝ってしまうのだ。はあぁぁと盛大な溜め息を漏らし、今年もマヨのボトルと煙草のカートンが溢れた部屋にズカズカ入っていく。辞めろと毎年断ってはいるが隊士達全員がアホな為、この日は俺の誕生日の筈なのにも関わらずこうして仕事を増やされる結果となるのだ。


「こいつァ、総悟のヤローだな」


声音に怒りを込めながら、マヨや煙草に埋まりながら確かに存在を示している藁人形を握り締めた。こうして考えると去年も凄まじかったなと振り返る。名前が腕と足にマヨを塗りたくって油ですっ転びながら祝いに来たりしたな。あれは厄介だったが…と思い出してはちょっとばかし息がしにくくなった。認めたくはないがあの瞬間少し興奮したのを嫌でも覚えている。こんなときに嗚呼、俺という奴は……と恥ずかしくなり自分で自分を斬りたくなる衝動に刈られるのだ。


「ひっじかったさーん!」


噂をすれば甲高い声を張り上げて廊下を走ってくるのはその馬鹿女で、俺は時と場所が悪かったなと思い小さな舌打ちを漏らす。高鳴る鼓動はきっと心臓に刀を突き刺さねェ限り止まない。


「お前今年はマヨ塗りたくってねーだろうな!?」


ハッとして急いで自室の入り口から廊下の名前を伺うと通常の格好だったので安堵の溜め息を吐いた。「どうしたんですか?」なんて聞かれたもんだから「いや気にするな」と言い頭を冷やす。名前を見ると1年前の誕生日のアレを思い出しなんかそわそわする。


「去年は腕と足にマヨを塗ったんですが土方さん全然喜んでくれなかったから」


いや結構興奮したって。


「沖田さんに聞いたら今年は土方さんが藁人形をお好きだと教えてくださったので」

「はぁ!?」



総悟のヤローあいつなんなんだ斬るあいつ絶対斬る!名前は嫌な予感がした通り藁人形をぎゅっと差し出した…笑顔で。おめーも馬鹿かと叱りながら藁人形を自室へ投げると今にも泣きそうな顔をしたのでそれを見た俺はハッと我に帰り慌てて目の前の華奢な身体を抱き締めた。


「え…えーっと嬉しいから、とにかく祝おうとしてくれたのは嬉しいから。とりあえず泣くな。」

「でも土方さんが喜んでくれてない…私意味ない」

「う、嬉しいっつってんだろ!」

「嘘だもん。今年も喜んでくれなかった…」



うわぁあああと俺の腕の中でジタバタし始めた。厄介だ…あ、俺が悪いのか。ヤバイ…ヤバイぞ。あたふたしちまう。焦るな冷静になれ悲しませるな。目の前の名前の身長に目線を合わせるように俺はしゃがみ込み下から顔を伺った。とにかくフォローだ十四郎!おめーなら出来るだろ十四郎!



「えーとなんつうか、まぁ祝おうとしてくれたのは本当に嬉しいから」

「でもっ、ひっぐ…土方さんが…」

「んじゃ俺の欲しいもの貰って言いか?」

「なん、で…すか?」



きょとんと俺の顔を見る名前の目からダラダラと涙が零れ落ちている。それを俺は手で拭った。それでも全然表情が晴れない事に困り、頭を撫でたり、もう一度抱き締めたりしてみる。ただ笑ってほしかった。笑顔が見たかったんだがこんな子ども騙しでは無理か。そうだなこいつだっていつまでも子どもじゃねーんだし。


「名前、目ぇ瞑れ」


言われるがまま閉じられた目からは最後に一筋瞳に残っていた涙が頬を伝い真下へ落ちた。それを拭えず残念に見てから、俺は自分の口を名前のほんのり桃色の唇に近付ける。それは殺那的なものだった。口を話した途端に名前がバチッと目を開け驚いている。


「笑ってくれ」


名前の顔を下から覗くようにそう言うと真っ赤な顔でニコッと俺の望み通りに笑顔を見せた。「それでいい」ともう一度だけ名前の頭を撫でた俺の背後数メートル後ろからチッと総悟の小さな舌打ちが聞こえた気がした。




---------------
20110505 14:17


沖田の土方を地獄へ落とす
という作戦は失敗に終る←

綾咲







[back]






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -