バカはお前だ



あーあ、と片手に紙切れを持ったまま親指を見つめて溜め息混じりにそう言う。真面目に書類の整理をして作業に慣れたからか漸く捗ってきたなと意気込んでいた矢先、まさかそれで指を切ってしまうなんて。切れた部分からじわじわと血が出る。赤いというより黒っぽい赤だ。黒っぽいほうって確か静脈血だったっけ、あれ、動脈血だっけ。そんな事を血をじっと凝視したまま考えていると「お前、」と頭上から声がして見上げると土方さんが引きつった顔をして私に言った


「お前、そんな悪趣味持ってたのか」

「違います」


多分土方さんは私が故意に自分で自分の指を切ったんだと勘違いしているんだと思う。書類を見せながら「これで切れちゃったんです」と言うと「血なんか見てねーで止血するだろ普通」と言いながら土方さんが近くの棚をごそごそとし出した。


「土方さんこそ何してんですか、それは悪趣味ってやつですか」

「ちげー!救急箱探してやってんだろが」

「ああそうなんですか」

「どっかの誰かさんが自分の指が切れたってのにボケーっとしてっからよォ。て、あれ、ねェな」



救急箱が無い。そんな事件が起きた。事件ってほどじゃないか。だが指を見ればたかが紙切れで切ったとは思いがたい量の血が出ている…というより一筋流れそうだ。しかし私だって実は真選組の立派な隊士である。これっぽっちの流血だけでは全く驚かないというのは普段戦場でたくさんの血を見ているのが原因だからか。未だにボケーっとしている私の指を指差しながら土方さんが「血、血!流れてる!」と言った。「え、」と見た時には血がポタポタと畳みに垂れて痛々しい染みを作っていた。やばい、と思い片方の手で畳みの染みをとろうとした。そんな私の前に舌打ちしながら座った土方さんが私の血が出たほうの指を摘まみ「お前は馬鹿か」と言う。


「畳みなんかより止血が先だろ、馬鹿野郎」

「でも畳み…、」

「黙って俺に従え、そんなんじゃ死ぬぞ、お前は死にてェのか?」

「死にたくないから従います」

「救急箱も見つかんねェし、クソッ消毒できねーな」

「そんな大袈裟なー。こんなの放置療法で大丈夫ですよ」

「菌が入って化膿したらどうするつもりだ」



心配性だなぁ…と心の中で呟く。こんなの放っとけばいつか血が渇いて治ってる筈だ。そのままじっとしていた私は又しても傷より畳みを気にしてしまう。あーあコレどうやって取ればいいんだろ、後で女中さんに聞いてこよ。「止まんねェな」と言った土方さんに「止まりませんね」と私も言った。そんな暢気に治るのを待っている私に土方さんは「仕方ねェから傷口舐めろ、舐めて血ぃ止めろ」と言い捨てた。それを聞いて「えぇっ」と表情を歪める。傷口を舐めるってなんだか私には抵抗がある、だってこんな男ばかりのむさ苦しい所に居ても根は女だし、舐めるのはちょっと…しかも人前でなんて更に抵抗がある。ぐずぐずしているとまた土方さんが「血が!おいっ血が垂れるって!」と騒いだ。そして仕方ねェなと呟いてなにやら決意したような様子の土方さんは私の腕をガシッと掴むと、血が出た指を口に含んだ。


「うおっ、ちょ、土方さん!?」

「……」

「離してくださいっ変態!」


指を引っ込めようとすると舌で傷口を押されズキズキと強い痛みが走る。「いったぁ!」と睨み付けると、もうやだこの人、めっちゃ意地悪い笑顔向けてる。何、この人Sっ気あるの?普段は沖田さんって言う筋金入りのドSがいるから目立たないけどまさか土方さんもSなの?もうやだこの人!


「血ぃ止まったみたいだぜ」


傷口から口を離した土方さんが、ふん、と鼻で笑って口元を拭った。私の指からどんだけ血が出たんだろうか、拭った土方さんの唇にまだ血の赤みが残っていた


「土方さん」

「あん?」

「吸血鬼みたいでキモいです」

「ああ!?」

「キモくないです、すみません」



「うるせー」と吐き捨てて私を放置し自室から出ていこうとする土方さんに「ちょっと、」と呼び止める。舐められたままで後はどうすればいいんですか、放置しないでくださいよ。


「この後はどうすれば…」


そう聞くと土方さんがズボンから取り出したポケットティッシュと絆創膏を私の前まで投げて「それで拭いて絆創膏貼ってろ」と言い去っていった。「…はい」とそのポケットティッシュと絆創膏の2つを拾い上げた私は直ぐに気付く。


「最初からこの2つで止血出来たんじゃないの」




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20110429 02:26

他人のことを散々
バカ呼ばわりしてるけど
実は副長も天然バカ。←





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