在る帰り道の噺
「“永遠”なんて言葉は信じたくないの」
学校から家への帰路で突然立ち止まった名前が言った。春風に揺れる名前の髪の毛が夕日に照らされて儚げだったことを覚えている。言った後、少し俯いて俺に背を向けたまま黙っている名前。俺はその唐突な言葉に対してなんて言い返してあげればいいんだろう、彼女は今俺になんていう言葉を求めているのかと考えていると名前が振り向き、続けた
「例えば『永遠にファンです』とか『永遠に見守ってる』とか。それって意味不明じゃない?」
「……うーん」
正直そんな難しいことなんて今まで考えたことないし、正確な言葉を返せずに曖昧な返答をしていたら名前は俺に向けて不機嫌な表情をして「山崎君?」と若干強めに呼びかけてきた。返事をすると「ちゃんと考えてる?」と聞かれ、内心考えてねーよ!それを考えてどうすんだよ!と思ったが、これ以上彼女を困惑させたくなかったので大人しく「うん、考えてる」と頷いてしまった。「そう。」と納得して通常の表情に戻った名前を見て自分にも笑顔が灯る。その事から気付く通り、俺はそんな名前に片想い中なのだ。そのふとした瞬間に見せる笑顔や、たまに刺々しい言葉をふきかけてくるところ、それにそんな気難しいことを考えるところまで全てひっくるめて好きになってしまった。
「だってね、“永遠”なんていつまでのことかも定かではないでしょ?」
「うん」
「最も、一般的には死ぬまでとかずっととかだろうけどね」
「そうだね」
「それに一番意味が分からない例が『永遠に愛する』よね。あれは本当に意味不明」
「……。」
俺の好きになってしまったその人は、いつでも難しいことを一人で黙々と考えていて、前世が論理とか唱えてた人物なんじゃないかと誰もが疑うほど思想家で、なんか惹かれるものがある。でも残念なことにその俺の想い人の名前は恋とか愛とか、永遠とかそういう類の言葉は全部「曖昧だ」と決めつけて信じようとしない。
「……そう、かな」
俺が初めて相槌以外の反応を見せると彼女はパァっと明るい表情になり今までにないほどの食いつきをした。そうか、名前は一人で考えていたんじゃない。一人で考えるしかなかったんだ。故に答えを求めたんだ。答えを求めて、答えをくれる人をどこかで欲していたんだ。
「もしかして山崎くんは何か知ってるの?」
「俺は…、」
本当の答えなんて国語の評論家でもあるまいしそんなの分らない。でも人には一人一人の考えがあって、それは何通りあるか計り知れない。どこかで聞いた話では考えなんてヒトの数ほど存在するらしい。その中の俺の考え、何十億分の一に過ぎないけれど、ずっと一人で考えて答えを求めてきた彼女に俺なりの答えを教えてあげたい。そして孤独だった恋を知らず信じない名前に教えてあげたい。
「試してみる?」
「え?」
「“永遠に愛する”っていう言葉」
「山崎くんが協力してくれるの?」
「うん、でも多分“永遠”ってそう早く終わるものじゃないと思うんだ」
「そうね。あくまで一般論だけど、『永遠』って『ずっと』という意味が一般的な考えらしいものね」
「名前は俺に永遠に愛されるのは嫌?」
「嫌じゃない」
「そっか」
夕日に反射してうまく名前の顔が見れなかったのが残念だ。今どんな顔をしているんだろう。驚いているかな、いや、名前の事だからきっと落ち着いているんだと思う。それにしても今日は夕日が沈むのがやけにゆっくりだ、気のせいかも知れないけどまるで時間が静止している空間にいるようで不思議。ボーっとしていると「はいっ」と名前が無表情で俺に向けて片手を差し出してきた。戸惑いながら手を取ると、名前が笑顔を浮かべて「教えてくれるんでしょ?永遠の意味を。」と言った。それから、
「永遠によろしく」
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20110530 01:23
難しい事を書くのは難しい!
綾咲
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