夢現

ヒロイン死ネタ




愛する恋人が逝って3回目の秋が来た。


残暑と言うんだろうか、夕方になるともう辺りには蛍が飛び交っているというのに涼しさを知らない。稽古を終えた後、熱気で蒸し暑い道場から抜けて自室へ向かった




「た…―――」


ガラッと障子を開けて『ただいま名前』と言いかけた言葉を呑む。小さく微笑した後、すぐ寂しさが込み上げてきてその場に膝まづいた




「馬鹿だ」



彼女が死んでもう3年経つと言うのに未だに存在を探している自分がどこかにいる。忘れようと思っても拒否して忘れようと思えば思うほどもっと名前を思いだそうとする俺がいた



情けない。


まだ拭き取れてない汗が畳に一滴落ちた



稽古から帰れば前まではタオルを持って出迎えてくれていた名前。その習慣がまだ恋しくて戻りたくて名前を呼んだ。




「名前…――」


そう言えばすぐにタオルを持って来て「汗拭かないと風邪引いちゃうじゃない」とか「お風呂で汗流してきたら?」とか言ってくれる気がした。でも、もうどこにもいない。




なんとなく体がだるくなって畳に横たわり、握っていた竹刀を近くに置いて暫くじっとしていた。疲労からか段々と瞼が重くなってきて睡魔が襲う。時計を見ると6時を過ぎていた



薄くぼんやりと照らす満月が部屋に入り、ある場所に射した。それは名前が生前着ていた着物が飾ってある場所。




「名前…」



手を伸ばして着物を取り、力一杯抱き締めて眠りにつく。まだ名前の温もりが残ってる気がして、今だけは…今夜だけは夢で名前と逢いたい




俺は深い深い眠りに墜ちていった




夢現、君に逢ふ。




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綾咲恋菜








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