花畑シンドローム
「なぁなぁ、名前」
「あーケーキの中に住みたい」
「…はい?」
始めてこいつの異常な想像力に気付いたのは付き合って2ヵ月。デート中に突然『風船たくさん持てば空飛べると思うんだ』とかワクワクした子どもみたいな表情で言ってきて驚いたのを今でも覚えている。ぶっ飛んだ想像力はそれだけじゃなくて『虹を渡ってみたい』とか『クマさんとかウサギさんと森でパーティーした夢を見た』とか色々ワケわかんないこと言ってて正直頭に問題があるんじないか?なんて思ったほどだ。けど今じゃそれも慣れてしまって、というか寧ろ俺も最近侵食されてるような気がする。この間だって名前が『天空の城って凄いよね』だなんて大前提に存在しない架空のものをガキみたいに目をキラキラさせて言うもんだから俺も真剣に考え込んでしまったほどだ。
最近不満なことがある。
名前が想像に夢中で俺に構ってくれねぇ。せっかくのデートなのに話しかけても「地球上の空気が全部ヘリウムガスだったら楽しくない?」とか言ってきてムードぶち壊し。あえなくキスは諦めた。本当に最後にキスしたのはいつだっただろうか。そんなことを考えていると前が霞んで見えなくなる。銀さんだって泣きたいときある、人間だもの。こんなに寂しい想いしてること、そろそろ気づいてくんない?いい加減にしないと銀さんは離れますよー…って嘘だけど。そもそもなんでこんなに夢中になるくらい想像家なのか疑問に思う。だって俺が話しかけても耳に入らないくらいだよ?哀しすぎてくじけそうだ。それでも別れないのはやっぱり名前を愛しているからであって、やはりそうなると名前もどう思ってるのか気になる。そりゃ好きだろうよ。だって俺達付き合ってんだから。でも名前のその妄想や想像ばかりで満帆な頭に少しでも“俺”という存在はあるのかとか。以前から不安に思ってた
「でもケーキもいいけど遊園地に住むっていうのもいいなぁ」
「なぁ、名前」
「羊を飼ったら毎日フワフワな日々だよ〜」
更に想像ワールドを繰り広げる名前。
「名前ちゃ〜ん、こっちの世界(現実)に戻ってきなさーい」
軽くペチペチと頬を叩けば名前が戻ってきた。目をパチパチさせて俺を見る
「これ結構真面目な話なんだけどさ、」
「なに?銀ちゃん」
「お前の頭の中に少しでも俺は居るか?ケーキとか遊園地にとか天空の城とかの片隅でも俺は居るのか?」
女みたいだって言うなよ?俺こう見えて硝子のハートなんだから。すると名前がニコッと笑った
「何言ってるの?いつだって私の頭の中には銀ちゃんの存在でいっぱいだよ」
「マジでか?」
「大好きなんだから」
名前の言葉を聞いたとき、さっきの自分が恥ずかしくなった。何やってんだ俺。妄想なんかに妬いたのかよ、かっこわる。
「でもやっぱりさぁ、天空の城はあると思うんだよね。ラピ〇タみたいに空の上の上の上に」
俺がホッと安堵していたのも束の間。少し油断すると すぐに名前の想像ワールドに突入し、さっきの言葉が嘘みたいに消え去るような悲しさ。やっぱり俺はまだ妄想には勝てないみたいだ。いつかは名前の頭から想像の世界なんか消え去らせたいけどそれは何十年後になるのやら…。それにはまだ修行は必要だろうな。
「銀ちゃん、今度一緒に虹を渡ろうね」
嗚呼こいつの頭の中はまさに花畑…
花畑シンドローム
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作成日不明
でもここまで来たら
流石に病気だと思う。
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