許嫁
今日も朝からバタバタと煩いやつがやって来る。いつ勝手に持ち出したのか俺の家の合い鍵でドアを開けドタドタと階段を上がりバタンと勢いよく部屋のドアが開く。
「十四郎、朝だよ!」
「勝手に家にあがるなって言ってんだろ」
「起こしに来てあげてんの」
「ったく…」
幼い頃からずっと一緒に居たわけではない。こんな俺等の会話じゃ一見幼馴染みと勘違いするかもしれねーが、中学に入って初めてこいつと知り合った
それから付き合って…だから、もうかれこれ5年は付き合っている。まだ高校生だからそんなリアルに考えたことは無かったが婚約してるも同然な感じがするな…ってことは、つまりこいつは嫁っていうのも同然だから合い鍵持ってるのも可笑しくないのか…
そんなことを起きたばかりの脳みそを回転させ考えながらカーテンを開け、さらに窓も少し開けながら気持ち良さそうに伸びをしている名前の後ろ姿をぼーっと見ていた
未だにベッドの上に座り目が虚ろの俺に「早く学校行こうよ、置いてくよ?」なんて言いながらも制服を出してくれた
「それくらい自分で出来る」
「って言ってるけどベッドから動かないじゃん」
「朝には弱いんだっつの」
「はいはい」
性格上プライドが高い俺はやはり人に頼るのも嫌いだし頼ってるつもりがなくても実際は頼っていると自覚するのも嫌なので適当に理由を付けては自分のプライドをキープしていた
そんなことを既に分かりきっていると言うように宥めるのが名前であってやっぱりこいつは俺の一番の理解者なんだと気付く。
「今日の朝ごはんはねぇパンケーキにしようと思って」
「パンケーキ?」
「たまにはいいかなって。ハチミツかけると美味しいんだよ」
部屋を出ていく間際に振り返り、ふふっと微笑んだ。支度を済ませ、下のリビングへ下りるとテーブルには朝飯のパンケーキが置いてある。エプロンを外しながら椅子に座る名前。
毎朝、朝飯を一緒に食うなんざもうカップルというより夫婦だと思う。
なんだったら俺ん家に住めばいいのに、だなんて少し前に名前に言ったときには『高校卒業しないうちは同棲禁止でしょ』とか言ってた
納得しざるを得ない理由だったし尚更悔しかったが、高校生活なんて短いもんだからこうして毎朝こいつが来るし、今はそれなりに満足。
「今日の1時間目は日本史だったかなぁ」
そんなふうに呟きながら忘れ物が無いかカバンの中を確かめる名前。確かめ終わった様子でソファーに座っている俺の隣に腰かけた。毎朝名前が起こしに来てくれてるお陰で時間には余裕。
だが二人でまったりしていたら早くも時間が流れ登校時間が迫る
俺はベタなドラマや小説などでしか聞いたことは無かったが、きっとこんなときに『時間が止まればいいのに』って思うんだろうな。今の俺の感情がまさにそうだから。
「さ、学校行こ」
カバンを持ちながら立ち上がった名前の腕を掴んだ
少し力を入れ引っ張れば、ひゅるりと引き寄せられるこいつの身体はなんとも華奢で。膝の上に乗せるように抱えれば、いわゆる『お姫様だっこ』の態勢になった
「十四郎、がっこ……」
「そんなんどうでもいい」
“今はお前との時間が欲しいんだ”
これから卒業して結婚して俺たち夫婦になって、いつかは餓鬼が産まれて…。こんな二人だけの時間なんて今味わわなければ死ぬまで味わえねーんじゃねぇか?
だから
「夫婦になる前の最大のサボりをしようか。」
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作成日不明
土方さん夢の練習として。
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