そんなはずはない


私は所謂「ガリ勉」に分類される人間である。テストでいい点を取ったり、結果の順位が上がると両親が喜んでくれる。そうすると両親の笑顔を見た私が安心する。結局はその自己満足に浸りたくて、無我夢中に猫を被るつまらない人間なわけで。授業が終われば、友達同士でカラオケに行ったり街へ遊びに出かける人とすれ違うようにして、私は毎日のように図書室へ向かう。放課後なんてやっと勉強という呪縛から解放される己個人の至福の時間帯であるからこんな場所に人なんているわけがなく、すっからかんの図書室へ足を踏み入れるのはいつも私1人で、別に寂しいとかじゃないけどなんか虚無感を感じるというか、先程すれ違った人達が少し羨ましく思ったり…

「おい」

図書室の出入り口で立ち止まっていた私に背後から掛けられた声は、男の、柄が悪そうな男の、聞いた感じでは不良っぽさが感じ取れる男の声。振り向くと片目にいつも眼帯をしていてこの前停学が解けたばかりの…高杉くんだっけ、その人だった。

「あ、すみません」
「おお」

肩をすぼめ、ちょっと横に退けると何事も無かったように通りすぎ、図書室の奥へと歩んでいき本を適当に持ってきて椅子に腰かけた。そんな完璧に校則違反している格好の彼がこんな聖なる学習の場に一体なんのようで来たのだろうか。いや、人を見た目で判断するのはいけない事だけれどもそれところとは話が違う。怖い。威圧感がとんでもないくらい出ている。こんな場で落ち着いて勉強なんて出来ない、集中できる気がしない。だから私は引き返すことにしたのだが、じっと見ていた私に高杉くんは「何してんだ、勉強すんじゃねーのか」と言われてしまい、「やっぱりやめる」なんて言葉を言える度胸を残念ながら持っていなかった私は言われるがまま、椅子に座る。

高杉くんの視界になるべく入らないように、あまり目立たないように、本棚の影の椅子に腰掛け、いよいよ勉強を始めようとすると本をパラパラ捲っていた高杉くんが手を止め、腕組をしたあと、爪をいじってみたり、携帯をいじったり、なんだか彼のほうも落ち着かない様子だった。そりゃそうだろう、と思う。彼にとったら図書室なんて静かすぎて落ち着かないんじゃないか、と言うかどうして来たの?いや私の独占区域じゃないし別に構いませんが。

「お前よォ、勉強好きなんだな」

そう言われてどうも答えられずに私は黙ってしまった。勉強は好きじゃない、いい成績を採るのが好きなだけだ。けど、周りの人にとってはいつ見ても参考書とにらめっこしている私なんて者は所詮、勉強しか趣味がない優等生にしか見えないんだろう。そう思い、縦に首を振った。

「でも周りの奴みたいに遊びたいとか思わねーのか?」
「思う…けど」

勉強が疎かになってしまっては大袈裟だと思うけど、はっきり言って私が生きてる意味が無くなるような気がしてならない。私だって恋愛をしてみたいと考えるけどいつでも勉強が気になって仕方ないと思う。

「今更だから」

自嘲ぎみに笑い、参考書を1ページ捲る。こんなんでいいのか、それはもう高校生の私には考えるのが遅すぎる議題であって、周りには高校デビューを華々しく飾った人だっていたかもしれないけれど私にはそんな勇気がなくて。ああいつも私はこうだ、と落ち込む。

「そうか」

高杉くんはそれだけ言うとまたパラパラと本を捲り、それっきり何も言わなかった。空気を読んでくれたのだろうか。いい人なんだ、とちょっと見直す。

「ちっ、貧乳ばっかかよ」

は?と思い真横を見た時、高杉くんが見ていた本というのは「美術」のカテゴリーにあった中世の女性の裸体が描かれた絵画集だった。大体真面目に本は読んでないだろうと予想はしていたけど、まさか読んでいたのが漫画本とかでなく裸体画集だとは、先程空気の読めるあの良さによって上がった好感度がカクンと下がる。

「高杉くん!何読んでんの!」
「お前も興味あんのか?」
「そうじゃなくて!」

両手を握って机をバタバタ叩きながら紅潮した顔で説教を始める私に高杉くんは喉を鳴らして笑う。私としては何が面白いか全く理解できない。「もー集中できません!そしていつの間に隣の席に座ってるの!」と言った私に「お前ェの真顔以外の表情初めて見た」と高杉くんは言った。不覚にもどきっとしてしまい、参考書で顔を隠すと「おい、隠すなバーカ」と言いながら席を立ち上がった

「バカじゃっ」
「ないよな、はいはい分かった」
「帰るの?」
「いや便所行くだけ。お前が終わるまで待ってやる」
「いいよ別に」
「いいから黙って勉強してろ。それから2問目思いっきり間違えてんぞ」

ドアが開いた出入り口で振り向いた高杉くんは私のノートを指差してそう言った。そのまま出ていく彼の言葉にそんなはずはないと思い答えあわせをしてみれば、まさかだった。

「…あり得ない」

どうやら私よりあの人のほうが頭脳が肥えているらしい。非常に悔しい事実を知ってしまった私は頭を抱えて机に突っ伏せた。が、

先程からの一連の出来事が嬉しいと言うか久々に楽しかったと言うか、ワクワクしたと言うか、胸がむず痒くて。ノートに消ゴムを滑らせながら私は思わずニヤけてしまった。



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20110722 21:44

久々の短編…!(笑)
もっと素敵な話を
書きたかった(´;ω;`)



Thank You Reading!

Rena-Ayasaki






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