悩殺モーメント

「なァ、アイス食うだろィ?」

猛暑の香りがそこまで来ている初夏のある日。インターホンがなったと思いドアを開ければ右手にアイス、左手にコンビニ袋を握って沖田総悟が立っていた。ニコリともしないその額には汗がうっすらと滲み、私の許可も得ずにずかずか人ん家に入り込んできた彼からはほんのりスポーツをした後のような匂いがした。麦茶を出すと一口飲んだ後に総悟が言う。

「それにしても…折角の休みなのに遊び相手もいないなんざ、名前も相当孤独ですねィ」
「そういう総悟だって、その孤独な私の家に来るほど暇だったってことになるんだからね」
「俺ァ本当は多忙だが、なんせ幼馴染みが家に一人と聞いたもんで。いやこれマジだから」

「どうだか」と言い、総悟が持ってきたコンビニ袋を漁る。が、中にはジャンプしか入っていなかったのを知り、私は顔を曇らせた。

「なんでィ」
「アイスは?」

「ん」と私の目の前に差し出されたアイスは総悟が食べていた食べ掛けのもので私は更に顔を曇らせて言う。

「私の分のアイスは?」
「間接キ、いたっ」

間接キス?そんなふざけた言葉言わせません、断じて言わせませんよ私は。暑くて脳ミソまで蒸発してしまったんだね可哀想に。

「えー別にいいじゃねーかィ、今更恥ずかしがんな」
「今更って何?今更って」
「俺達ガキの頃なんか1つのジュースを2人で仲良く分け合った仲だろィ」

いやそれはそうだけど。それとこれとは別ってわけですよ分かりますか総悟くん?大体、もう私たちは『ガキ』なんて言葉で括れるような歳じゃないのに、私の幼馴染みはそう言うところが分かってない。普通なら高校生にもなれば周りの反応が気になって異性の家に行けないと思う。あくまでも私はそう思う。私達の関係がただの友達や幼馴染みだとしても、だ。

「食わねーならいいけど、溶けちまうし」

そう言ってアイスはパクリと総悟の口の中に消えていってしまった。あー、逃した。そう思ってしまったのは好きなんじゃなくて、アイスを食べたかっただけ!断じて好きなんじゃないよ、うん。…でも食べなかった私自身に少し後悔してるけど。

「名前、麦茶おかわり」

総悟のグラスが空いた。言われるがまま、とりあえず麦茶をもう一杯注いでやれば、サンキューと言ってグラスを受け取る。その手が私の手に触れた。瞬間的に離してしまい、寸での所でグラスは総悟が持ち直したけど衝撃で麦茶は少し零れた。

「大丈夫か、お前」と言うような表情で、何も言わずに私を見つめた総悟に私の口をついて出た言葉はとんでもないことで、言ってしまった途端に取り消したかったけど、総悟の耳にはきっと届いてしまっている。

「なんか…いつも来られると、逆に期待しちゃうからもう来ないで」

グラスを持ったままの総悟の表情が固まっている。そうだよね、急にこんな事言われたらそうなるよね、ははは。

「ごめん!今の忘れてください!」
「おいっ、」

床に溢れた麦茶をティッシュペーパーで拭き取る作業に移った私は床ばかり見ているしかなかった。じわりじわりとティッシュが麦茶に浸食されていく。それは私の心がなんとも言えない感情に侵食されていく様を表しているようにも見えた。やっぱり総悟は私を幼馴染みだとしか思っていなかったんだよ、なのに何を期待していたんだろうバカかバカだねホントにバカ。溜め息を吐きたかったのにそんな時に限って出ないもので、俯いていると顎に手が掛かり、自然と私の顔が上がる。

「期待しててくれたとは、なかなか嬉しいこと言ってくれるじゃねーかィ」

ニヤリ。昔から見ている笑顔がこの一瞬、今までと変わった輝きに見えたのはきっと私がアイツに恋をしていると気付かされたからで。

「何を期待してる…?」

意地の悪さは相変わらず変わらない。悪戯に笑った総悟が怨めしい。抱き締められて耳元で先刻のように囁かれて、顔が真っ赤になった私はそれが相手に悟られないように握っていたティッシュを総悟の顔へと押し返し言う。

「やっぱ何も期待してない!」

空中をはらりと舞うティッシュの向こう側で総悟が「嘘つき」と小さく笑った



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20110701 19:26

テスト期間の息抜きとして
綾咲が妄想したものを文に
著した小説です(´・ω・`)

駄文すみません!

Thank you reading!






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