雨が止んだら

雨なんて何日ぶりだろうか。ここ最近はずっと晴れてばかりだったからそろそろシトシトと降る雨の音が恋しくなってきた頃…

「…なわけないじゃん。」

今日は折角非番なのに。だから街へショッピングに行きがてら今公開中のとなりのペドロを観てこようと思っていた私の計画はパーだ。障子を開けて外を睨んだままの私にその場を通り掛かった沖田が言った。

「おいおい、どうしたんでィ?ブスーっとして。不細工な面がもっと不細工になりやすぜ」
「おいおい、兄ちゃんどこに目ェ付けてんの?この私のどこが不細工だと言うんだい」
「こりゃとんだナルシストだねェ」

ははっと私が適当に笑い流すと沖田が私の隣へ胡座をかいた。こら、副長補佐の前では正座をしなさい。正座をして最後に痺れた足を引き摺りながら帰りなさい。あーなんだか雨音が段々強くなってきた。沖田が外を見ながら静かに言う。

「名前さん、今日非番じゃねーかィ」
「そうだよ、だからペドロ見に行こうと思ってたのにこの有り様だよ」
「どうりで」
「どういう意味」
「どうせウキウキしてたんだろィ、雨女め」
「ちょ、雨女って言うな!」

本当は自分でも沖田が言う前に思っていた。それを自分で思っているよりも、やはり他人に言われると心に刺さるものがある。「副長補佐になんたる無礼」と刀を取った私に「口が滑りやした」なんて言いながら一度ぺこりと沖田は謝った…が、こいつの謝り方ってただ宥めてる感があるというか真面目な謝罪の気持ちがこもっていない。まぁ一応謝ったからいいかと言うわけで「気を付けなさいよね」と一言だけ言ってまた黙る。

「土方さんはペドロより、エイリアンvsやくざの方が面白いって言ってやしたけど。」

ずっと続いた沈黙。憎い雨の音を遮ったのは沖田が発したその言葉だった。ぽつりと独り言のように呟かれたその言葉に「マジでか」とだけ返事をした私。

「でも俺のオススメは崖の上のドMっていう映画で、ドMが崖っぷちに追い詰められて喜んでるっていう…」
「今日もSっ気全開だね、沖田」
「実はそうでもないんでさァ」

いきなりシュンとした沖田に「…雨だから?」と聞いてみたら一度頷いたあと、

「気圧の変化ってやつかねィ、いまいち調子が出なくて」
「さっき私に会って早々不細工って言ったのに?」
「あれは挨拶変わりですよ」
「おまけに雨女なんて言ったのに?」
「口が滑っちまったんですよ」

へぇー、と疑い深い視線を粘り強く、隣に座っている奴に向けると沖田は思い出したように言った

「あ、そういやこの雨は通り雨だからもうじき止みやすよ」
「なんでわかるのさ」
「さっきここへ来る前に天気予報見てきたんでさァ」
「もうじき…ねぇ」
「だから時間は短くなったかも知れねェけど少しは折角の休日を楽しめるんじゃねーですかィ」

障子の側に行き外を見て沖田が「雨雲も薄くなってきやしたよ」と私に手招きをした。私も近寄り空を見上げれば灰色から徐々に空色に戻りつつある。雨がだんだん弱まってきた気がした。

「雨が上がった後の風景ってのも、なかなか良いもんですねィ」

ぽつりと呟く沖田に私も心の中で同意する。雨上がりの時は空気がしっとりしていて落ち着くから私も好きだ。すると沖田は次に「さて、俺も名前さんに同行しやしょうかね」とこちらを見た

「でも沖田、勤務中なんじゃ…」
「大丈夫、大丈夫」
「ったく…副長に叱られても私知らないからね」
「副長補佐を護衛するのも立派な仕事ですぜ」
「沖田…」


これも雨上がりだからだろうか。立ち上がり再び刀を腰に挿して「さ、雨が止んだようですが」と座っていた私に手を差し出した沖田が何故か神々しい王子様のように見えた。


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20110512 01:38
雨が降ってる時は
なんか嫌いですが
止んだ後の神秘的な
あの感じが好きです

綾咲



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