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天は二物を与えず…とはよく言ったもので、私にはお金はあるが友達が居なかった。大豪邸とまではいかないがそれなりの大きな屋敷に住んでいた私は今まで散々箱入り娘として門限やスケジュールまで決められ手厚く育てられてきた。のにも関わらず今日、急に「出てけ」と言われたのだ。なんの前触れもなく昨日まであんなに私を監視下に置いていた父上は先程私を呼び出したかと思えば「名前もそろそろ社会勉強と言うものをしなさい」と突拍子もないことを口にしたのだ。両親の天の邪鬼さと気紛れさにはほとほと呆れるが、私だってもう高校生だ。別に住む場所と生活費さえ与えてくれれば問題ないよと私がへらっとした表情で言うと親は安心したように微笑んだ。今までずっと束縛されてきたんだ、そんな私がいつまでもこのままで居たいなど思うわけがない。寧ろ中学生くらいから一人暮らしをしたいと思っていたし。というか中学生の門限が15時30分って聞いたことねぇよ、前代未聞も甚だしい、そんなの学校早退しなきゃいけない速さではないか。過去を思い出しては今までよく耐えてきたなと自分を褒め称えたくなるほど。でもだからと言って父上母上を責め立てようとはしない。だから今回も大喜びせず静かに喜びを噛み締めた。さて、住む場所と生活費の話だがそんな交渉を持ちかけた私に、父上は勿論用意はしてあるさと豪快に笑った。なんと高校から最寄りの高級マンションと1ヵ月100万の生活費、それと執事も用意していたらしく、それは私が翌週に新居にて荷物の整理を独り黙々と行っていた際にやってきたのだ

「お初にお目に掛かりやす、沖田総悟と言う者でございやして本日からお嬢さんの用心棒を勤めさせて頂きやす」
「は、はぁ…ご丁寧にどうも」

今の今まで知らなかったので急な展開に戸惑っているとニコリと笑った沖田くんは私の右手を取るとそれを両手で包み、「会いたかったでさァ」と言った。そこまで慈愛に満ちた眼差しで見詰められた理由は分からなかったが、先程の沖田くんのキラースマイルが私の胸を打ったのは確かだった。

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