7 「ちょいと図に乗り過ぎましたかねィ」
不機嫌な私に沖田くんは言う。そして私の目の前に本物のシフォンケーキとアップルティーを静かに置いた。
「そうよ、度が過ぎてる」
いい匂いが鼻をついたのを証拠だと言うように少し遅れて3時のおやつの時間が始まった。本当は一人暮らしを始めた今になっても実家に住んでいた時のようにおやつの時間なんて設けないつもりだった。私だって少しでも周りの社会人に近付きたかったし、おやつのなんてなんだか子供っぽいし。でも風の噂によると大人だってたまには間食という名のおやつを食べるし、「おやつ」ではなく「ティータイム」にすればネーミング的にも問題ないということを私は思い付いてしまったから独立した今でも続いている。
「ケーキやクッキーなど西洋のお菓子というのは非常にカロリーが高いんでさァ」
私がシフォンケーキを味わっているとなんの前触れもなく突然語りだしたその執事。顎に手なんかあててるから雑学的な事を言っているように見えるけど、内容的には誰でもわかるような事だったので「そんな事知ってるけど」と言ってもう一口食べた
「俺ァ、自分が仕えているお嬢様のご健康を守ることも執事の仕事に含まれている気がするんですよねィ」 「だから何?っていうかよだれ垂れてるよ」 「俺が半分食べてあげてもいいんですぜ」 「は?」
それはただ沖田さんもケーキを食べたかっただけなんじゃ…。そう言う間もなく沖田さんは私が持っているフォークを取り上げ、半分残っていたケーキを一口で平らげてしまった。あんなに残っていた私のシフォンケーキが…、一瞬にして沖田さんの口内に消える。
「ああ!」 「ごちそうさまでした」
今の私はきっと地獄絵図を見たような酷い表情をしているだろう。でも加害者である彼は私とは正反対に幸せそうな顔をしている。舌なめずりなんてしやがって、なんて憎らしい奴なんだ!
「これでカロリーは俺と名前お嬢様で半分こ。二人で分け合えましたねィ」
空虚と化したその皿を未だに見つめていた私の肩に手を置いて耳元で囁く沖田さんに私は言う。
「ホントなんなのよ!」
すると沖田さんは落ち着いてと言わんばかりに私の頭を撫でながらにこやかに笑った
「幸せも苦しみもカロリーも分かち合えたら、俺にとってはこの上ない幸せなんでさァ」
だが普段ならキュンとくるこの言葉も、先程私のケーキを横取りした沖田さんが発した文章だと思うとキュンというよりイラッと来たので、抱き締められそうになり、近くなった彼の肩を全力で突き飛ばした。
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