あら、デジャブー?


誰かが保健室に来た。ドアを少しだけ開け、室内の様子を伺っている。誰が何の用で来たのかと横目で見てみればなまえが膝から血を流して出入り口に立っていた。あ、コケたんだなアイツと心の底で小さく笑う。聞こえるか聞こえないかの声で「失礼します」と入室して保健医の姿を探してうろついているなまえに「派手にコケたみてェだな」と声を掛けてみると今まで俺の存在を知らなかったなまえがビクリと身体をびくつかせ「びっくりしたー」と言った



「そんなに驚くこたァねーだろ、ククッ」

「高杉くんかぁ、お化けかと思った」




と言うのも銀八が「出席日数が足りなくて留年するぞ」とか言ってうるせぇし仕方ねェから最近は学校に来てるが勉強なんかダルい、無理だ。とりあえず学校来てればあとは銀八がなんとかするだろ、ここが教師の腕の見せどころだと授業は受けないでずっと保健室にいる。保健医のババアは「保健医」なのに普段から保健室に居ないことが多く、そいつよりもここに居る事が多い俺を万斎達は勝手に「保健室の番人」とか言いやがる。が、いちいち反応するのはダルいから無視。



「それより血が出てらァ」

「うん、ちょっとそこで転んじゃって。全然大したことないんだけど一応消毒しに来たの、バイ菌入ると大変だから」

「へぇー」



白い棚から消毒液とピンセットとガーゼを探しだし、なまえが近くの丸椅子に腰掛けたので俺はそれを見ようと、それまで昼寝していたベッドから起き上がりなまえの近くのもう1つの丸椅子に腰掛けた



「でもこれ痛くて苦手なんだよね私。小学生の頃によく怪我しちゃって、しょっちゅう保健室の先生に消毒してもらうたびに泣いてた」


くすり、と小さく笑いながら真っ白なガーゼに消毒液を数滴垂らしたなまえの手首を俺は無意識のうちに掴んでいた。「どうしたの?」と目を丸くしているなまえ。俺だってどうして掴んだのか知りてェよと自問自答しようと自分の脳ミソに問い合わせているうちに2、3秒の間があいてしまっていた。



「高杉くん?」

「俺がしてやるよ」


もっとマシな誤魔化し方はなかったのか、オイ俺の脳ミソ。なまえだって「え?」って顔してんじゃねェか。この沈黙の状況にやるせない気持ちが込み上げ「やっぱ俺昼寝する」と言おうとしたその前に「痛くしないでね」となまえに笑顔でガーゼと消毒液を託されてしまった。ピンセットも渡されてフリーズしている俺の前になまえが膝を差し出したからもうやるしかねェ。


「俺を誰だと思ってんだ、保健室の番人って言われてんだぜ?」



あー言ってしまった、自分で認めてしまった。万斎から発進した「保健室の番人」と言うダサいネーミングをまさか俺が認めてしまうとは。「ほんとにー?」と首を傾げて笑うなまえを見て、おそらくリラックスしてるなまえに消毒するなら今がチャンスだと言わんばかりにガーゼをピンセットで傷口に近付けた。念のため「平気か」と聞くと「あ、そういや痛くない」と消毒されていた事に気付かなかったくらい痛くなかったらしい。我ながら神業だと思う。決めた、俺ァ将来保健医か医者になる!



「高杉くんは普段ここで何してるの?」

「昼寝」

「さっき私が来た時も?」

「ああ爆睡だった」

「ふーん、夢は見た?」

「見たけど…覚えてねェ」

「そっかー」



無傷のほうの足をプラプラさせながら他愛もない話を吹き掛けてくる。それに答えてるうちに普通に会話していた。俺はあまり学校に来なかったし、来たとしても教室に行かねェし、コイツが着ているジャージに書いてあった「なまえ」と言う名前と、学年によって違うジャージの色から推測して「コイツは同級生だ」としか分からなかったが、なんだか話していてもっと知りたいと思うことがたくさん出てきた。心臓がソワソワして気持ちワリィななんだコレ。「高杉くんが見る夢ってどういうのなんだろ」と言ったから「想像つかねェか?」と聞くと「思い出したら教えてね」となまえが言ったので俺は一回だけ頷いた。



「でもたまには授業受けなきゃ駄目だよ?」

「ああ?おめェが俺に説教かァ?」



意地悪に笑いながら少し傷口を押してやると、なまえは「いたっ」と膝を後ろに引いた。「痛いよバカ」と言いながら俺を睨んだなまえがちょっと涙目で「あーなんかこの感じエロいな」と思いながら「わりィ、手がすべった」と詫びる。なんだかコイツとは今さっき会ったような感じじゃねェなと不思議に思う。確かに今回がなまえと交わした初めての会話だ。でもなまえの話し方が親しみやすくてすぐに打ち解ける感じだったからなのか?前から友達だったような、そんな錯覚に陥る。可笑しいなと思いながら傷口に絆創膏を貼ってやった。


「終わりだ」

「ありがとう、ご丁寧に絆創膏まで貼ってくれて」

「さっき痛くしちまって涙目で睨まれたからな。これでチャラって事でいいな?」

「な、涙目なんかなってないもん!」

「嘘つけよ、しっかり見たぞ俺ァ」

「なってない!」

「はいはい分かったからお前は教室戻れや」

「高杉くんは?」

「俺は残る、また昼寝だ」



そう言うと盛大な溜息を吐いたなまえがドアを開けてこちらを振り返り「ありがとね、高杉くん」とニコリと微笑んでドアを閉めた。あの笑み、いつかもみた事がある。やっぱり俺はアイツとどこかで一度会っていたのか?いやそれはあり得ない、俺の記憶が正しければ。暫く黙ってドアを見つめ、先程のガーゼをゴミ箱に捨てた。



「あ、」



その時に思い出した。あの顔、あの笑み、あの場面。



「デジャブー、」



さっきの夢で見たんだったな。






あら、
デジャブー?

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20110407 01:59


やっぱり杉様は
保健室がよく似合う。


綾咲







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