『坂田くん。私…実は坂田くんの事が前から好きだったの』

『知ってるよ夢子。俺だって愛してるさ』

『坂田くんの為ならなんだって捧げるわ』

『本当かい?夢子。』



 ………
 ……
 …



「―…そう言いながら俺は夢子を押し倒…グボエ!」

「絶対有り得ないからそんなシナリオ」



そう。今までの回想はこのド変態坂田くんのおぞましい妄想だったのでご安心を。



「あのさ、妄想するのは坂田くんの勝手だけどそれを口に出さないでくんない?」

「あれ?声に出てた?」



あちゃー…と自分のおでこを叩く坂田くん。その背後にはいつからいたのか猿飛あやめちゃん、通称さっちゃんがいる。何故かハァハァして坂田くんの背後に居る。



「銀さん、私の妄想小説良かったら読んで下さい!」


そう言い、頬を赤く染めながら差し出したさっちゃんの手には抱えきれないほどの紙束。これは全部さっちゃんによる、さっちゃんのための、さっちゃん著作の恋愛小説。ざっと数えても500ページ以上はある超大作。「良かったら読んで下さい!」という丁寧な交渉に対して、さっちゃんの方に目もくれずに「良くないから読まねェ」と坂田くんは冷たく返事をした。



「分かったわ、これは放置プレイね!こうして私を弱らせといて一番弱った時に食らい尽くすという一種の放置プレイね!いいわ、いいわよその意気よ!」

「うっせェエエ!」



さっちゃんに詰め寄られ鬱陶しくなったのか、その辺に置いてあった本を投げ付けた。薄紫色の長いサラサラの髪が舞い、赤眼鏡がふっ飛んだ。バタリと床に倒れたさっちゃんはまだ頬を赤く染めたまま気を失う。一方坂田くんはというとまた難しい顔をし始めた。そして何秒か考えた後に語り出す。



「『好きだ』俺が言うとそれに応えるように夢子が笑顔を見せた、そして…いだっ」

「そして、私は坂田くんの頸動脈をチョップする」



無表情で頸動脈をチョップし続けている私に坂田くんが首を押さえながら言う



「頸動脈はヤバイからやめよう!ってか夢子とのラブストーリーをぶち壊さないでくんない!?」

「なーんだつまらないなー、坂田くんが亡くなって私は平和に生きていくっていう素敵な小説が出来ると思ったのに」

「全然素敵じゃねーから!バッドエンドだよ!」



口を尖らせ言う私に、坂田くんが困惑した表情を浮かべたまま暫くの間黙り込んだ。え、もしかして真に受けちゃったのかな?今のは度が過ぎたボケだったかな。傷つけちゃったかな、謝った方がいいよねコレ。




「あの…坂田くん、ごめ…」

「『でもそんな夢子もひっくるめて俺は大好きだ!』そう言って夢子にキスを…」

「近寄らないで下さい変態」



やっぱり変態坂田くんはこんな事で傷付くはずがない。


だって彼はバカなんだから。


キスをしようと顔を近付けてきた坂田くんの頬をペチッと叩いたと同時に、次の授業開始のチャイムが鳴った





..







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