あの暑苦しい夏が終わったかと油断してカーディガンを羽織り登校した私に気候というものは厳しかった。8月下旬だと言うのにまだ暑さを増す今日この頃。仕方がなくカーディガンを脱いでワイシャツで過ごす生徒達。熱中症で保健室へ運ばれる同級生。お妙ちゃんに殴られ保健室へ運ばれる近藤くん。
「暑いんだよコノヤロォォォ」
「副長ォォォ」
土方くんに八つ当たりされバキッと自慢のミントンラケットを折られた山崎くんはあまりに衝撃的で本編と3Zの区別も付けられず「副長」と呼んでいた。そして意味が分かんないけどラケットを修理しに山崎くんまで保健室へ駆け込んだ。
「修理と保健室関係無くね?」
そう呟いた私も暑すぎてなんだか頭がおかしくなりそうだ。でも私の隣にはもう既に頭がおかしい人がいる。
「暑いとさー、なんかこう…ムラムラするよな」
「坂田くんだけでしょ」
隣の席でアイスを頬張っているこの人は年がら年中変態なわけで…。
「もうさー、これさー、こんなに暑いとさー」
「制服じゃなくて水着で授業受けたほうが涼しくね?…でしょ?」
「ピンポーン、はい当たりー。見事正解した夢子には俺とディープキス出来る券を差し上げまーす、おめでとう」
「全力で断る!」
大体そんな事を言うんだろうといつものイメージ通りに言った予想が当たっていた時のショックはどんな電気ショックよりも強烈だった。軽蔑した表情を浮かべながら少しずつ机を遠ざけた私に坂田くんが騒ぐ。
「ちょ、ジョークだよジョーク!遠ざけないでくんない!?」
「学生だからまだ警察沙汰にはならないものの、一般人だったらすぐにセクハラ発言で捕まるよ。って事で今から私の半径10m以内に入らないでね」
「半径10mって、遠回しに『教室から出てけ』って言いたい感じ?」
「正解な感じ」
無表情で言う私とは裏腹に、坂田くんはこれまでにない程の表情を浮かべ「ひどい!」と落ち込む。前に向き直ると黒板には『学園祭に向けて』と白いチョークで書いてあり、実行委員を中心に話し合いをしていたようだ。
「えーっと、学園祭の出し物ですが…このクラスは何にしましょうか」
慣れない仕切り役に戸惑いながら私達に問いた実行委員にただ1人元気に手を挙げ意見を言った生徒がいた、私の隣の席に。
「夢子のコスプレショー」
「坂田くん、一生黙ってて」
「メイド服は定番過ぎるから個人的にはナース服とか婦警服が…ぶべらっ」
とりあえずペラペラ口が止まらない坂田くんの顔面を机に叩きつける。白目を向いた彼の鼻からは大量の鼻血が流れていた。
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