「この連立方程式を解くとχ=5となる、従って――」



本来ならばこんな蒸し暑い日にサウナ状態の教室で、こんな勉強をしなくても良かったのだ。本来ならば。暑い暑いと呟きながら約2時間みっちり数学を学び、坂田くんと教室を出た。スパルタ補習のせいで完全に顔が死んでいる坂田くんを生き返らせる為に近くのファミレスに寄る。



「私ね、ここの苺パフェの割引券持ってるんだ」


坂田くんと同じで甘い物だけには目がない私。ここのファミレスのパフェはチョコでも苺でも関係無しに全てのパフェが美味しい。実はかなり通いつめています、ほら店員さんも常連が来たような目で見てるし。うふふ。



「坂田くんもパフェ大好きでしょ?食べようよ」



パフェが入った2つのグラスがテーブルに運ばれてきた。その一つを坂田くんの方へスライドさせると机に頬をくっ付けて脱力していた坂田くんはパフェの存在を見た途端に目が今までに無いほど輝いた。



「マジで食っていいの?俺の好きなパフェだし、しかも俺の好きな夢子の奢りだし、ホント幸せじゃんか!」

「ここのパフェ超美味しいから!」



夢中になって食べている坂田くん。あらあら、鼻にクリーム付けちゃって…。
こうしていると普通の甘党仲間にしか見えない。変態な一面がなければ、話も合うし付き合ってあげてもいいかも…って思ってしまう。でもそれはあくまで『変態な一面がなければ』の話。



「あー美味かった、俺満足だわ」



ファミレスを出て昼下がりの帰り道を歩きながら隣で坂田くんが言った。本当に満足そうな顔をしている。



「もう満足過ぎて、このまま死んでもいいかも!」

「それくらい美味しかったもんねー」

「あ!!!」




違う!と言うやや大きめの声と共に歩みを止めた坂田くんに私はファミレスに携帯でも忘れてきたの?と聞いた




「違くて、さっきの言葉撤回!」

「は!?」

「俺は夢子の処女を手にいれねーと死んでも死にきれ――グハッ」




真剣な眼差しで何を言うのか期待したけど、やっぱり私の期待を見事に裏切った。思えば私は彼に何を期待していたんだろうか。やっぱり夏の暑さで私の頭もおかしくなっちゃったのかな、これも一種の夏風邪ですか?




「もう坂田くんなんか知らない、パフェの食べ過ぎで死んじゃえ。」




その場には坂田くんの「腹は蹴らないで」という言葉と蝉の煩いくらいの鳴き声が響いた。暑中の昼下がり、午後2時30分の出来事だった。






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