すっかり辺りは夜の色に染まり、祭りの灯りが一層その場所を活気ある物にさせる。
夜となっても立ち昇る祭りの熱気か例年増す暑さの為か、涼が欲しくなる。大人気の【かき氷】屋を漸く出られ、両手に二人分のかき氷をもつデイダラは、待たせているサソリの元へと急いでいた。
彼は待たすと大変機嫌が悪くなる。重々承知であるが故、それでもせっかくのかき氷を零さまいと慎重に且つ迅速に歩いていく。

ザッと歩みを止めた。同時に高鳴る心臓。

ひと時だけ祭りの活気が消え去った。夜の優しげな風に呼応する無数の風車を背景に、一人佇む愛しい姿。
祭りの提灯の光で照らされた姿勢を正すその横顔と、浴衣の襟から見える白い首筋が綺麗で、思わず見とれてしまう程に。


「……芸術だ、うん」

「…?デイダラ」

「サソリの旦那、無防備に立ちすぎ。ナンパとかされなかったか」

「お前が意外に早かったから、別に何もねぇよ。つか、ナンパはありえねぇだろ」

「旦那は、今の自分の綺麗さをもっと自覚した方がいいぞ、うん」

「悪いがあまり分かりたくねぇな、それは」


もうーと恋人の危機のなさに不満を零すも、お構いなしにサソリはその手からかき氷を受け取ろうとする。
その時、周囲は色鮮やかに光り輝き、と同時に耳を打つ大きな音が轟いた。途端に周りの人々がおおっと声を上げ出す。


「いけね!もう花火始まる時間だったか!」

「別に花火なんて…」

「どうでもよくないぞ、うん!旦那こっち!」

「あっおい!」


咄嗟に小走りで先を行くデイダラに、サソリは戸惑いながらも着いていく。
人を掻き分け出店を通り過ぎ、そして何故か花火の上がる逆の方向へと向かっていく。疑問を抱くが、慣れない浴衣で着いていくのがやっとのサソリ。
暫くしてその歩みが止まったかと思えば、そこは花火も遠く辛うじて見える程度の、しかし人気のない小さな祠だけが建てられている場所であった。


「デイダラ、花火はどうでもよくなかったんじゃねぇのかよ。あんなに小さくしか見えないぜ」

「…うん。オイラ花火見るのが好きで、いつもは近くで見なきゃ気が済まない性分だ」

「…」


だけど…と、デイダラは言葉を続ける。


「一番大切な人と一緒に見たいとも思ってたから。誰にも邪魔されない空間で、オイラの大好きな花火を」


サソリは思わず目を見開く。
誰にも邪魔されないって考えると、どうしても場所が限られるからな。花火が小さく見えちまうのはしょうがないと、苦笑いを浮かべてそう話すデイダラ。

そうか。オレにも秘めた思い出があった様に、コイツにも何かの思い出があったんだ。
それを…今日は、オレと一緒に見たいと言ってくれた。
大切な思い出を共有したいなんて、そんな事言われたら…嬉しくない訳ないだろ。


「まあ、その溶けかかったかき氷がなきゃ満点だったんだがな」

「うぇっああー!せっかく買ったかき氷!これ結構高かったのに…うん」

「貸せ」

「旦那?」

「溶けかけでも食えりゃいい。大人しく食おうぜ、花火でも見ながらな」

「うっうん…!」



遠くに聞こえる祭り囃子と、空に咲く花火の音。
ふと隣りを見れば、子供を思わせる目を空へと向ける彼の顔。それでもこちらを見つめ返せば、大人じみた眼差しを浮かべて。
また来年も来ような。近くではっきりと耳にしたその言葉に、柄にもなく感情を波立たせて、こくりとひとつ頷いてみせる。


互いに手を取り、そっと交わされる口づけ。
向かい合う二人はどう見ようとも、男女の恋人同士。それでも見ていたのは恐らく、サソリの膝にいる二匹の金魚達だけだ。

二人を彩る夏の華は、慎ましく祝福を捧げているかの様であった。





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